IP / VRF-Lite


VRFインスタンス内での通信
VRFインスタンス間通信
スタティックルーティング
ルーターA
ルーターB
ダイナミックルーティング(BGP)
ルーターA
ルーターB
VRF環境におけるスタティック経路の設定
VRFインスタンス内のスタティック経路
VRFインスタンスをまたぐスタティック経路


VRF(Virtual Routing and Forwarding)は1台のルーターやスイッチ上に複数のルーティングテーブル(ルーティングインスタンス)を持つことができるようにする機能です。
VRFではルーティングインスタンスをVRFインスタンスと呼びますが、各VRFインスタンスは独立しているため、同一機器上であってもVRFインスタンス間で重複するIPアドレスを使用することができます。
また、ルーティングプロトコルもVRFインスタンスごとに独立して動作させることができます。これらの機能により、1台の機器を複数台の機器のように動作させることができます。
VRFはMPLSネットワーク上で使用することを想定したプロトコルですが、VRF-LiteはMPLSネットワークに依存しない設計となっており、よりシンプルな実装となっています。

Note
x530シリーズでVRF-Liteを使用するにはフィーチャーライセンスが必要です。
ライセンスのインストール方法については「運用・管理」/「システム」の「ライセンスキーのインストール」をご参照ください。
x530LシリーズはVRF-Liteに対応していません。
Note
VRF-LiteはIPv6には対応していません。

VRFインスタンス内での通信

VRF-Liteを用いたネットワークを構築するための基本的な手順について説明します。
ここではVRF-Liteを用いて2個のVRFインスタンスを作成します。また、作成したVRFインスタンスに所属していないVLANが所属するVRFインスタンスであるグローバルVRFインスタンスも利用します。どのVRFインスタンスも通信は同じVRFインスタンスに所属する機器間のみ可能となり、他のVRFインスタンスにパケットが送信されることはありません。

Note
作成したVRFインスタンスではマネージメントサービス(SNMP、Syslog、NTP、DHCPサーバー、Telnetサーバー、SSHサーバー、ファイルコピー等)が動作しません。これらを使用したいときはグローバルVRFインスタンスで行ってください。なお、pingtraceroutetelnetsshの各コマンドでは、vrfパラメーターにより任意のVRFインスタンスを指定できます。また、DNSリレー機能とDHCPリレー機能はVRFインスタンス単位での動作に対応しています。DNSリレーについては「IP付加機能」/「DNSリレー」を、DHCPリレーについては「IP付加機能」/「DHCPリレー」をご覧ください。
Note
IPマルチキャストに関連する下記の機能は、グローバルVRFインスタンスだけでなく、作成したVRFインスタンスでも使用可能です。
なお、下記の機能は、作成したVRFインスタンスでは使用できません。
また、作成したVRFインスタンス上では、1つ目のマルチキャストパケットの転送は未サポートです(グローバルVRFインスタンスではサポート)。

PIM-SMについては「IPマルチキャスト」/「PIM」を、IGMP、IGMPプロキシーについては「IPマルチキャスト」/「IGMP」を、IGMP Snoopingについては「IPマルチキャスト」/「IGMP Snooping」をご覧ください。
Note
AMF関連VLANはグローバルVRFインスタンスで使用してください。マネージメントVLAN(初期設定vlan4092)、ドメインVLAN(同vlan4091)、および、AMF仮想リンクで使用するVLANは、グローバルVRFインスタンスに所属させる必要があります。

なお、以下の例では、VLANの作成とスイッチポートへの割り当ては完了しているものとします。VLANの設定については、「L2スイッチング」の「バーチャルLAN」をご覧ください。

  1. 必要なVRFインスタンスを作成します。これには、ip vrfコマンドを使います。
    同コマンドを実行するとVRFモードに移動しますが、ここでは同モードでの設定が不要なため、すぐにexitコマンドを実行してグローバルコンフィグモードに戻ります。
    Note
    グローバルVRFインスタンスは最初から存在しているため、作成する必要はありません。

  2. 作成したVRFインスタンスに各インターフェースを所属させ、IPアドレスを設定します。
    VRFインスタンスへの割り当てはインターフェースモードのip vrf forwardingコマンドで、IPアドレスの設定はip addressコマンドで行います。
    Note
    作成したVRFインスタンスに割り当てていないインターフェースはグローバルVRFインスタンスの所属になります。

設定は以上です。

VRFインスタンス間通信

各VRFインスタンスは独立しているため、通常VRFインスタンス間での通信はできませんが、機器内部で各VRFインスタンスの経路情報をやりとりすることによりVRFインスタンス間での通信を実現できます。

VRFインスタンス間のルーティングには、スタティックルーティングもしくはBGPによるダイナミックルーティングを利用します。
Note
各VRFインスタンスではVRFインスタンス間でのルーティングとは別にスタティックルーティング、RIP、OSPF、BGPを使用することができます。
Note
VRFインスタンス間通信を行っているときはVRFインスタンス間で経路情報を送受信するため、各VRFインスタンスの独立性はなくなります。そのため、VRFインスタンス間で重複するIPアドレス空間は使用できません。
Note
VRFインスタンス間通信時は、 VRFインスタンス間でECMP経路は単一経路としてインポート/エクスポートされます。
Note
VRFインスタンス間のマルチキャスト通信は未サポートです。

スタティックルーティング

ここではスタティックルーティングを用いてルーターAに設定されている2つのVRFインスタンス間の通信を実現する方法を説明します。なおここでは、ルーターAのインスタンス「VRF-BLUE」とルーターB間ではOSPFを用いてダイナミックルーティングを行います。

なお、以下の例では、VLANの作成とスイッチポートへの割り当ては完了しているものとします。VLANの設定については、「L2スイッチング」の「バーチャルLAN」をご覧ください。

ルーターA

  1. 必要なVRFインスタンスを作成します。これには、ip vrfコマンドを使います。

  2. 作成したVRFインスタンスに各インターフェースを所属させ、IPアドレスを設定します。
    VRFインスタンスへの割り当てはインターフェースモードのip vrf forwardingコマンドで、IPアドレスの設定はip addressコマンドで行います。

  3. VRFインスタンス間のスタティックルーティングを有効にします。これには、ip route static inter-vrfコマンドを使います。
    Note
    本コマンドはデフォルト有効なため、明示的に無効化していない場合は省略できます。
    awplus(config)# ip route static inter-vrf
    

  4. VRFインスタンス間通信用のスタティック経路を設定します。これには、ip routeコマンドを使います。
    Note
    VRFインスタンス間通信用のスタティック経路を登録する場合の転送先(GATEWAY、IFNAME)指定方法の詳細については、「VRFインスタンスをまたぐスタティック経路」をご覧ください。

  5. 最後にVRFインスタンス「VRF-BLUE」・ルーターB間での経路交換に用いるOSPFを設定します。
    これには、router ospfコマンド、networkコマンド、redistributeコマンドを使用します。
    OSPFメッセージの送受信を行うネットワークを「192.168.10.0/24」とし、所属エリアを「エリア0」とします。またVRFインスタンス間通信で設定したスタティック経路を再通知できるように設定します。
    awplus(config)# router ospf 1 VRF-BLUE
    awplus(config-router)# network 192.168.10.0/24 area 0
    awplus(config-router)# redistribute static
    awplus(config-router)# exit
    

ルーターB

ルーターBではVRF-Liteを使用せずにOSPFを動作させます。
  1. vlan10にIPアドレス「192.168.10.2/24」を設定します。
    awplus(config)# interface vlan10
    awplus(config-if)# ip address 192.168.10.2/24
    awplus(config-if)# exit
    

  2. 同様にvlan11にIPアドレス「192.168.11.1/24」を設定します。
    awplus(config)# interface vlan11
    awplus(config-if)# ip address 192.168.11.1/24
    awplus(config-if)# exit
    

  3. OSPFを設定します。
    OSPFメッセージの送受信を行うネットワークを「192.168.10.0/24」とし、所属エリアを「エリア0」とします。またvlan11のインターフェース経路を再通知できるように設定します。
    awplus(config)# router ospf
    awplus(config-router)# network 192.168.10.0/24 area 0
    awplus(config-router)# redistribute connected
    awplus(config-router)# exit
    
設定は以上です。

ダイナミックルーティング(BGP)

次に、BGPを用いてルーターAに設定されている2つのVRFインスタンス間の通信を実現する方法を説明します。なおここでは、ルーターAのインスタンス「VRF-BLUE」とルーターB間ではOSPFを用いてダイナミックルーティングを行います。

なお、以下の例では、VLANの作成とスイッチポートへの割り当ては完了しているものとします。VLANの設定については、「L2スイッチング」の「バーチャルLAN」をご覧ください。

ルーターA

  1. 必要なVRFインスタンスを作成し、さらにRD(Route Distinguisher)を指定します。これには、ip vrfコマンドとrdコマンドを使います。

  2. VRFインスタンス間での経路情報の送受信を設定します。これには、route-targetコマンドを使います。

  3. 作成したVRFインスタンスに各インターフェースを所属させ、IPアドレスを設定します。
    VRFインスタンスへの割り当てはインターフェースモードのip vrf forwardingコマンドで、IPアドレスの設定はip addressコマンドで行います。

  4. VRFインスタンス間通信で用いるBGPを設定します。AS番号は500とします。
    awplus(config)# router bgp 500
    

  5. VRFインスタンス「VRF-BLUE」にBGPを設定します。
    VRFインスタンス「VRF-BLUE」のインターフェース経路(直結経路)をBGPで再通知できるように設定します。また、VRFインスタンス「VRF-BLUE」で使用するOSPFの経路もBGPで再通知できるように設定します。
    awplus(config-router)# address-family ipv4 vrf VRF-BLUE
    awplus(config-router-af)# redistribute connected
    awplus(config-router-af)# redistribute ospf
    awplus(config-router-af)# exit-address-family
    

  6. VRFインスタンス「VRF-PINK」にBGPを設定します。
    VRFインスタンス「VRF-PINK」のインターフェース経路(直結経路)をBGPで再通知できるように設定します。
    awplus(config-router)# address-family ipv4 vrf VRF-PINK
    awplus(config-router-af)# redistribute connected
    awplus(config-router-af)# exit-address-family
    

  7. 最後にVRFインスタンス「VRF-BLUE」・ルーターB間での経路交換に用いるOSPFを設定します。
    これには、router ospfコマンド、networkコマンド、redistributeコマンドを使用します。
    OSPFメッセージの送受信を行うネットワークを「192.168.10.0/24」とし、所属エリアを「エリア0」とします。またVRFインスタンス間通信で設定したBGPの経路を再通知できるように設定します。
    awplus(config)# router ospf 1 VRF-BLUE
    awplus(config-router)# network 192.168.10.0/24 area 0
    awplus(config-router)# redistribute bgp
    awplus(config-router)# exit
    

ルーターB

ルーターBではVRF-Liteを使用せずにOSPFを動作させます。
  1. vlan10にIPアドレス「192.168.10.2/24」を設定します。
    awplus(config)# interface vlan10
    awplus(config-if)# ip address 192.168.10.2/24
    awplus(config-if)# exit
    

  2. 同様にvlan11にIPアドレス「192.168.11.1/24」を設定します。
    awplus(config)# interface vlan11
    awplus(config-if)# ip address 192.168.11.1/24
    awplus(config-if)# exit
    

  3. OSPFを設定します。
    OSPFメッセージの送受信を行うネットワークを「192.168.10.0/24」とし、所属エリアを「エリア0」とします。またvlan11のインターフェース経路を再通知できるように設定します。
    awplus(config)# router ospf
    awplus(config-router)# network 192.168.10.0/24 area 0
    awplus(config-router)# redistribute connected
    awplus(config-router)# exit
    
設定は以上です。

VRF環境におけるスタティック経路の設定

VRF環境では、VRFインスタンスごとに経路を設定する必要があります。
ip routeコマンドでスタティック経路を追加するときは、対象のVRFインスタンスをvrfパラメーターで指定してください。
vrfパラメーターを指定しない場合は、グローバルVRFインスタンスに経路が登録されます。

また、ip routeコマンドにはパケット転送先を指定するパラメーターとしてGATEWAY(ネクストホップアドレス)と IFNAME(出力インターフェース)があります。
以下では、VRF環境でスタティック経路を登録する場合にこれらのパラメーターをどのように指定するか、例を示しながら説明します。
Note
特定宛先のパケットを破棄するためのnull指定についてはここでは割愛します。詳細はip routeコマンドのページをご参照ください。

VRFインスタンス内のスタティック経路

スタティック経路の宛先(DESTINATION)が同一VRFインスタンス内にある場合は、登録先のVRFインスタンスを指定するvrfパラメーターの有無を除き、VRFを使用していないときと同じように指定します。


■ 転送先機器(ネクストホップ)のアドレス(GATEWAY)を指定します。
awplus(config)# ip route vrf VRF-BLUE 192.168.11.0/24 192.168.10.2

VRFインスタンスをまたぐスタティック経路

スタティック経路の宛先(DESTINATION)が他のVRFインスタンスにあるときは、自装置内で転送が完了する場合と、他のルーターを経由して宛先ネットワークに到達する場合とで、ip routeコマンドに指定する転送先パラメーター(GATEWAY、IFNAME)の組み合わせが異なります。


自装置内で転送が完了する場合
宛先ネットワークが自装置に直接接続されている場合、すなわち他のルーターを介さずに自装置内で転送が完了する場合は、宛先ネットワークに接続されている本製品の出力インターフェース(IFNAME)だけを指定します。
awplus(config)# ip route vrf VRF-BLUE 192.168.20.0/24 vlan20
awplus(config)# ip route vrf VRF-PINK 192.168.10.0/24 vlan10

他のルーターを経由して転送する場合
宛先ネットワークへのパケットを他のルーターに転送する必要がある場合、すなわちネクストホップが他の装置になる場合は、転送先装置のアドレス(ネクストホップアドレス)(GATEWAY)と、本製品の出力インターフェース(IFNAME)の両方を指定します。
awplus(config)# ip route vrf VRF-PINK 192.168.11.0/24 192.168.10.2 vlan10


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