[index] CentreCOM AR550S コマンドリファレンス 2.9

IP/レンジNAT


  - NATとは
  - NATの種類
   - スタティックNAT
   - スタティックENAT
   - ダイナミックNAT
   - ダイナミックENAT
  - Ethernet上でNATを使用する場合の注意事項
   - スタティックNAT
   - ダイナミックNAT
   - グローバル側インターフェースアドレスを使用したダイナミックENAT


本製品には2種類のNAT機能があります。1つはIPモジュールの一部として実装されているレンジNAT(またはIP NAT)、もう1つはファイアウォールモジュールの一部として実装されているファイアウォールNATです。

ここではレンジNATの使用方法について解説します。なお、2つのNATの併用はできませんので、ファイアウォール機能を使用する場合はレンジNATではなくファイアウォールNATを使ってください。

 

NATとは

IPでは、プライベートアドレスと呼ばれる特殊なアドレスの範囲が定められています。次にその範囲を示します(RFC1918)。


これらは、社内LANのように閉じたネットワークで自由に使用できるアドレスです。アドレスの割り当て方法は各組織が自由に選択できます。割当機関などのアドレスの使用申請をする必要はありません。個々のLANは完全に独立しているため、複数の組織が同じアドレスを使用していても問題は起こりません。それぞれのLANでアドレスが重複していなければよいのです。

これに対し、インターネットにアクセスする場合は、全世界で唯一無二のグローバルなIPアドレスを使用しなくてはなりません。グローバルアドレスは、一意性を保証するため各地の割り当て機関が管理しており、通常エンドユーザーはISP(インターネットサービスプロバイダー)などから一定数のアドレス割り当てを受けます。

ここで問題になるのは、インターネットの急激な普及等によりIPアドレスが不足気味になったことです。ネットワークの規模にもよりますが、インターネットへのアクセスが必要な端末の数だけグローバルアドレスを取得することは困難になっています。そこで、少数のグローバルアドレスを有効活用するために考え出されたのがNAT(Network Address Translation)です。

NATは、ルーターなどの機器でIPヘッダーのアドレスを自動的に書き換える機能です。LAN上の各端末には通常プライベートアドレスを使用し、インターネットにアクセスするときだけ始点アドレスをグローバルアドレスに変換して通信させようというのが、NATの基本的な考え方です。

NATはアドレス変換のパターンによっていくつかの種類に分類できますが、もっとも基本的なNATでは、トラフィックの識別にIPヘッダーの始点および終点IPアドレスのみを使用します。このため、プライベートアドレスとグローバルアドレスの対応は常に1対1となります。すなわち、グローバルネットワークにアクセスする端末の数だけ、グローバルアドレスが必要になります。

これに対し、トラフィックの識別にIPアドレスとTCP/UDPポートの両方を使用することにより、1つのグローバルIPアドレスで複数のプライベートアドレスに対応できる機能をENAT(Enhanced NAT)と呼びます(IPマスカレードなどと呼ばれることもあります)。ENATを使用すれば、端末型ダイヤルアップのように1つしかグローバルアドレスを割り当てられない環境でも、LAN側の複数の端末が同時にインターネットにアクセスできるようになります。

 

NATの種類

以下、レンジNATでサポートしているNATの種類について説明します。

 

スタティックNAT

プライベートIPアドレスからグローバルIPアドレスへの1対1変換を行います。どのアドレスからどのアドレスに変換するかは、あらかじめ固定的に設定します。


■ グローバル側インターフェースがPPPの場合は、単に次のように入力します。IPがプライベートアドレス、GBLIPがグローバルアドレスです。


■ グローバル側インターフェースがEthernetかVLANの場合は、上記の設定に加え、グローバル側LANでのARP要求に応えるため、次のコマンドを追加してプロキシーARPを効かせる必要があります。ここでは、プライベート側インターフェースをvlan1、グローバル側インターフェースをeth0とします。


これは、ホスト「1.1.1.5」がvlan1側に存在することを教えるコマンドです。PREFERENCE=0(優先度最高)を指定しているため、この経路エントリーは他のエントリーよりも優先されます。グローバルLAN上で1.1.1.5へのARP要求があった場合、このエントリーに基づきルーターが代理応答します(プロキシーAPR)。

Note - スタティックNATをダイナミックENATと併用する場合は、先にスタティックNATの設定を行ってください。レンジNATでは、NATテーブルを設定順に検索し、最初にマッチした条件に基づいて変換を行います。そのため、スタティックNATを先に設定しないとダイナミックENATの設定条件と一致してしまい、スタティックNATの設定が有効にならなくなります。

 

スタティックENAT

プライベートIPアドレス+TCP/UDPポ−ト番号から、グローバルIPアドレス+TCP/UDPポート番号への1対1変換を行います。どのアドレス+ポートをどのアドレス+ポートに変換するかは、あらかじめ固定的に設定します。固定グローバルアドレスが1個しかないような環境で、特定のサービスを外部に公開したいようなときに利用できます。

Note - スタティックENATは、必ずダイナミックENATと組み合わせて使用します。あらかじめダイナミックENATの設定を行い、スタティックENATで使用するアドレスの範囲を指定しておく必要があります。


■ 次のようなアドレス変換を行うスタティックENATの設定例を示します。


また、スタティックENATの前提として、プライベートIPアドレス「192.168.10.0/24」をグローバルIPアドレス「1.1.1.3」に変換するダイナミックENATの設定を施します。


Note - レンジNATでは、グローバルIPアドレスが不定な場合はスタティックENATを使えません。その場合は、ファイアウォールNATを使用してください。


 

ダイナミックNAT

複数のプライベートIPアドレスから複数のグローバルIPアドレスへの多対多変換を行います。アドレス変換時には、あらかじめ指定された範囲から使用されていないアドレスが自動的に選択されて変換されます。


Note - ダイナミックNATは、他のNATに比べてメリットが少ないためあまり使われません。


■ プライベートIPアドレス「192.168.1.1」〜「192.168.1.254」を、グローバルIPアドレス「192.168.100.1」〜「192.168.100.127」の範囲内で未使用のIPアドレスに変換するダイナミックNATの設定例を示します。



 

ダイナミックENAT

1つのグローバルアドレスを複数のホストで共用するもっとも一般的なNATで、アドレス・ポート変換、NAPT(Network Address Port Translation)、IPマスカレードなどとも呼ばれます。複数のプライベートIPアドレス+TCP/UDPポート番号を、1つのグローバルIPアドレス+複数のTCP/UDPポ−ト番号に変換します。ポート番号の割り当ては動的に行われます。


ダイナミックENATの設定は、GBLIPパラメーターでグローバルアドレスを明示的に指定する形式と、GBLINTERFACEパラメーターでグローバル側インターフェースを指定するだけの形式があります。後者の場合、GBLINTERFACEパラメーターで指定したインターフェースのアドレスがNAT用アドレスとして使用されます(ダイヤルアップ環境など、WAN側のアドレスが不定なときに使用します)。


■ NAT用グローバルアドレスを明示する場合は、GBLIPパラメーターを使用します。次に、プライベートIPアドレス192.168.10.1〜254をグローバルIPアドレス1.2.3.4に変換するダイナミックENATの設定例を示します。



■ PPP接続などでグローバルIPアドレスを動的に取得する場合は、GBLIPの代わりにGBLINTERFACEパラメーターで、グローバル側インターフェース名を指定することもできます。この場合、ENATのグローバルIPアドレスとしては、GBLINTERFACEで指定したインターフェースに割り当てられたIPアドレスが使用されます。



■ NAT用グローバルアドレスとしてインターフェースアドレスを使う場合(GBLINT指定時など)、ルーターからグローバル側に対してMAILコマンド、TRACEコマンドが使えなくなります。ルーターからグローバル側にTELNETすることはできます。ファイアウォールのENATでは、いずれも可能です。


■ NAT用グローバルアドレスとしてインターフェースアドレスを使う場合(GBLINT指定時など)、グローバル側からルーターへのPingには応答しません。一方、ファイアウォールのダイナミックENATでは応答します。


■ ダイナミックENAT使用時であっても、グローバル側からルーターへのTelnetは可能です。これを防ぐには、ファイアウォールNATを使うとよいでしょう。ファイアウォールNATでは、グローバル側からのアクセスはすべて拒否します。あるいは、レンジNATを使用するのであれば、次のようなIPフィルターを併用してください。



■ スタティックENATを使用する場合、あらかじめダイナミックENATの設定を行い、スタティックENATで使用するIPアドレスの範囲を設定しておく必要があります。


■ スタティックNATとダイナミックENATの両方を使用してアドレス変換を行う場合、設定順序に注意する必要があります。レンジNATでは、NATテーブルを設定順に検索し、最初にマッチした条件に基づいて変換を行います。そのため、スタティックNATを先に設定しないとダイナミックENATの設定条件と一致してしまい、スタティックNATの設定が有効にならなくなります


Note - レンジNATでENATを設定した場合、ルーターからグローバル側へのTRACE、MAIL(メール送信)ができません。


 

Ethernet上でNATを使用する場合の注意事項

ここでは、Ethernet(VLANを含む)上でNATを使う場合の注意点について解説します。

Ethernet上でNATを使用する場合、NAT後のグローバルアドレスとして、グローバル側インターフェースのIPアドレスと異なるアドレスを使用するためには、NAT用グローバルアドレスを経路表に手動登録し、プロキシーARPを有効にする必要があります。

Note - NAT後のグローバルアドレスとしてインターフェースアドレスを使用するときは、経路登録の必要はありません。また、グローバル側がEthernetかVLANでないときも必要ありません。

次に、スタティックNATを使用した場合とダイナミックNATを使用した場合それぞれについて、ローカルNAT機能の設定例を示します。以下の各例では、各インターフェースのIPアドレスを次のように設定してあるものと仮定しています。



 

スタティックNAT

次に示すのは、192.168.10.2→1.1.1.2のスタティックNAT設定例です。


3行目の経路設定により、グローバル(eth0)側における1.1.1.2へのARP要求にルーターが代理で応答するようになります。


 

ダイナミックNAT

次に示すのは、192.168.10.0/24→1.1.1.16/28のダイナミックNAT設定例です。この設定では、192.168.10.0/24のネットワークからeth0側への通信時に、送信元IPアドレスが1.1.1.16〜1.1.1.31のいずれかのIPアドレスに変換されます。


3行目の経路設定により、グローバル(eth0)側における1.1.1.16〜1.1.1.31へのARP要求にルーターが代理で応答するようになります。


 

グローバル側インターフェースアドレスを使用したダイナミックENAT

次の例のように、NATアドレスとしてグローバル側インターフェースに割り当てたIPアドレスを使用する場合は、ARPエントリーの登録は不要です。

ただし、インターフェースアドレスをNATアドレスとして使用する場合は、グローバル側ネットワークからルーターに対してPing等ができなくなります。








(C) 2005-2014 アライドテレシスホールディングス株式会社

PN: J613-M0710-03 Rev.K