自治体の情報システムの分野では、「ガバメントクラウド」という言葉を多く目にします。しかし、これから自治体のIT業務に触れる方は、「そもそもガバメントクラウドとは?」「何のためのシステムなの?」という疑問を抱くことも多いのではないでしょうか。
ガバメントクラウドとは、自治体や国のシステムをより安全で効率的に運用するために国が整備しているクラウド基盤です。現在、多くの自治体で導入や移行が進んでいます。
本記事ではガバメントクラウドの基礎知識や移行するメリット、課題点についてわかりやすく解説していきます。
ガバメントクラウドの基礎知識をわかりやすく解説
ガバメントクラウドとは、どのようなシステムなのでしょうか。
ここでは、ガバメントクラウドの基礎知識や導入の背景、自治体クラウドとの違いなどをわかりやすく解説します。
ガバメントクラウドとは?
ガバメントクラウドとは、国が整備した共通のクラウド環境を自治体が共同で利用する仕組みのことであり、「政府クラウド」とも呼ばれています。ガバメントクラウドの導入は、行政 DX を推進するための国策と位置付けられています。
従来、情報システムは国や自治体が独自に開発・運用を行ってきました。その結果、自治体間で仕様やデータ形式が異なりシステム連携が難しく、行政の効率的なIT活用の妨げとなってきました。
そこで、自治体システムの標準化が進められており、その運用基盤の一つとしてガバメントクラウドの利用が推進されています。これにより、国や自治体のデータ・システム連携を容易にし、行政の運営効率化やサービス向上を目指しているのです。
システム標準化における利用
「システム標準化」とは、政府が定めた標準仕様に準拠する情報システムへ移行することを指します。行政DXを推進するため、全国の自治体が共通で行っている基幹20業務については、システム標準化が義務化されています。
システム標準化の移行先は各自治体の判断で選定を行いますが、政府は後述しているメリットの観点から、ガバメントクラウドの利用を努力義務としています。そのため、すでにガバメントクラウド上でシステムを運用している自治体も存在します。
システム標準化の対象となる基幹20業務は以下の通りです。
- 住民記録に関する業務
- 住民基本台帳
- 戸籍
- 戸籍の附票
- 印鑑登録
- 選挙人名簿管理
- 税務に関する業務
- 固定資産税
- 個人住民税
- 法人住民税
- 軽自動車税
- 保険や保健福祉に関する業務
- 健康管理
- 就学
- 国民健康保険
- 国民年金
- 障害者福祉
- 後期高齢者医療
- 介護保険
- 生活保護
- 子育て支援に関する業務
- 児童手当
- 児童扶養手当
- 子育て支援
政府は、自治体の業務効率化による職員の働き方改革や住民サービスの向上を目指し、様々な施策を行っています。
ガバメントクラウドの展開とシステム標準化もそのうちの一つです。が、自治体の業務では住民の個人情報を扱うため、情報漏えいがあってはいけません。ガバメントクラウドへ安全に接続できるネットワーク環境やセキュリティ対策も重要です。
これまでの自治体ネットワークはいわゆる「三層分離」で安全性を確保していましたが、利便性とトレードオフになってしまっていた課題がありました。しかし、「地方公共団体における情報セキュリティポリシーガイドライン」の改訂などで、こうした課題を解消し、ガバメントクラウドをはじめ様々なシステムを便利に使えるようにする取り組みが行われています。
アライドテレシスでも、政府の方針や各自治体の状況に応じたネットワーク構築などのご提案をしています。「ガイドラインにどう対応したらいいんだろう?」と思ったらぜひ最新情報をチェックしてみてください。
自治体クラウドとの違い
複数の自治体が情報システムを共同利用したりデータ連携を行ったりする枠組みとしては、以前から「自治体クラウド」がありました。 しかし、自治体クラウドの導入・運用・情報システムのカスタマイズなどは各自治体の判断に委ねられているため、全国的な共通化には至っていませんでした。
一方、ガバメントクラウドは国が整備した共有クラウド基盤であり、標準化された自治体システムの運用基盤としての利用が想定されている点が、自治体クラウドとの大きな違いです。これにより、全国の自治体の行政サービスを均質化することを目指しています。
ガバメントクラウドへ移行するメリット4選
では、ガバメントクラウドへ移行すると、具体的に何が変わるのでしょうか。
ガバメントクラウドへの移行は、自治体の情報システムの運用コストや運用方法に大きな影響を与えるとされています。ここでは、自治体がガバメントクラウドへ移行することで期待される4つのメリットを解説します。
自治体間のデジタル格差の是正
各自治体間には、人口規模・財政状況・IT人材の確保状況などに大きな差があります。そのため、都市部と地方ではオンライン申請の対応状況などに差が生じており、行政サービスのデジタル格差が課題となっていました。
しかし、ガバメントクラウドに移行すれば、国が定めるセキュリティ基準や運用基準を満たした情報システムを、自治体の規模に関係なく利用できます。情報システムの共通化により自治体間のデジタル格差を是正して、全国どこでも一定水準の行政サービスを受けられる環境の実現が期待されています。
運用コストの削減
従来、行政の情報システムは各自治体が独自にサーバを設置して、構築・運用・保守を行う必要がありました。そのため、住民記録や税務などの全国共通の業務であっても自治体単位で情報システムを整備しなければならず、開発費や維持費が大きな負担となっていました。
一方、ガバメントクラウドでは政府が選定したクラウド事業者の基盤を利用するため、自治体の費用負担はクラウド利用料などが中心になります。さらに、基幹業務で使用するアプリケーション・OSの管理コストの削減や、自治体のIT担当職員の業務負担の軽減にも期待されています。
情報システムの効率的な運用・柔軟な拡張が可能
ガバメントクラウドには、さまざまな行政業務に対応できるアプリケーションの利用環境が整備されています。そのため、新しい行政サービスの展開や住民ニーズの変化に対応する際も、クラウド上でアプリケーションの追加・拡張をすることで柔軟な対応が可能です。
従来のように、システムの改修や改善の際にサーバの増設や大規模なシステム改修が不要となる点は大きなメリットとなるでしょう。また、行政サービスの成功事例などを他の自治体とも共有しやすくなるため、効率的な業務改善につながると考えられています。
セキュリティが向上する
行政の基幹業務では住民の個人情報などの重要なデータを扱うため、情報システムには高度なセキュリティが求められます。そのため、ガバメントクラウド の整備は2020年から運用されている「政府情報システムのためのセキュリティ評価制度( ISMAP )」に基づき、厳格なセキュリティ基準のもとでクラウド事業者が選定されています。
ISMAPに登録申請を行うクラウドサービス事業者には、以下3つの「情報セキュリティ戦略方針の策定・実施」に関する管理基準を満たしていることが求められます。
ガバナンス基準
クラウド事業者の経営陣が情報システムを統治するために実施すべき、管理・指導・評価・モニタリングなどの項目がまとめられています。
マネジメント基準
クラウド事業者の管理者が実施すべき、セキュリティマネジメントの確立・情報システムの導入・運用・監視・改善などの項目がまとめられています。
管理策基準
クラウド事業者の業務実施者が実施すべき、アクセス制限・通信の暗号化・バックアップなどの重要なセキュリティ対策に関する項目がまとめられています。
ガバメントクラウドでは情報システムの監視体制が強化されるため、不正アクセスなどの異常を迅速に検知できるようになります。その結果、情報漏えいのリスクが低下することに加え、災害時のデータ保護や迅速な情報システムの復旧にも対応できるなどのメリットも期待されています。
ガバメントクラウドの課題点3選
ガバメントクラウドへの移行には多くのメリットが期待できる反面、見逃せない課題もあります。
ガバメントクラウドの課題点を整理し、移行にあたってどのような注意が必要か確認していきましょう。
ガバメントクラウドへの移行に様々なハードルがある
当初、自治体の基幹20業務のシステム標準化は2025年度末(2026年3月)を期限に進められていました。しかし、2025年12月時点の調査では、52.3%の自治体で期限内の標準化が間に合わない見通しとなっており、標準化が順調に進んでいる自治体とそうでない自治体の二極化が顕著になっています。
その原因として、システム標準化が進む中で直面している以下のような課題が挙げられます。
- 自治体が独自開発した情報システムをガバメントクラウドに適合させることが難しい
- システム標準化の基準に曖昧な部分や変更があり、対応に追われていた
- 移行業務にあたる事業者やシステムエンジニアのリソースが不足している
- システム標準化以外にも、様々なセキュリティ対策を考慮しなければならない
標準仕様に準拠したシステムへの移行が遅れていることで、移行計画の見直しや追加対応が必要となる自治体もあり、移行のハードルが高まる要因となっています。
このような状況を受けて、2025年度末までの標準化対応が難しい基幹業務については、「特定移行支援システム」としてデジタル庁・総務省・制度所轄省庁らが引き続き支援を行う方針です。
今後、基幹20業務以外のシステムを移行する場合は、システム標準化にあたってどのような課題に直面したかあらかじめ見直しておくことがスムーズな移行のカギとなるでしょう。
移行時期は一時的にコストが増加しやすい
先述の通り、ガバメントクラウドへの移行は長期的にはコスト削減につながります。しかし、移行期間中から移行直後では、一時的に以下のコストが増加する可能性があります。
- 移行期間中の旧情報システムの維持費用とガバメントクラウドの利用料のダブルコスト
- 移行作業やガバメントクラウドの研修による一時的な職員負担の増加
また、ガバメントクラウドへの移行は不確定要素が多く、万が一のトラブルに備えるために移行費用を高額に見積もらざるを得ない状況も生まれています。これにより、自治体によっては予算確保が難しくなるケースも指摘されています。
ベンダーロックインのリスク
ガバメントクラウドは、特定のクラウドや開発ベンダーにシステムやデータ、運用ノウハウが集まりやすく、「ベンダーロックイン」になりやすい構造となっています。
「ベンダーロックイン」とは、特定の事業者の製品やサービスに依存しすぎることによって、他の事業者への切り替えが困難になる状態のことです。
ベンダーロックインに陥ると、以下のようなリスクが高まります。
- 別の情報システムやクラウド環境へ移行する際のコストや手間が大きくなる
- クラウド利用料などの価格改定によりコストが増加するリスクがある
- サービスが停止した場合に代替手段が見つかりにくい
もっとも、デジタル庁はすでにベンダーロックインのリスクを想定しており、複数のクラウド事業者を選定しています。これにより、事業者間の競争環境を維持しながらリスク分散を図る体制が整備されています。
しかし、ガバメントクラウドの構造上、ベンダーロックインが発生しやすい点は、今後の運用における課題の一つです。
まとめ
ガバメントクラウドとは、国が整備を進めている政府共通のクラウド基盤であり、標準化された自治体のシステムを運用するための基盤の一つとして利用が想定されています。
ガバメントクラウドに移行することで、自治体間のデータ連携の円滑化や運用コストの削減、セキュリティの向上などが期待されています。一方で、移行に伴うコストやベンダーロックインなどの課題があります。また、ガバメントクラウドの活用には庁内ネットワークやセキュリティについて考える必要もあるため、各自治体の状況やシステムの性質に合わせた判断が求められます。
今後は自治体の情報システムの在り方にも大きく影響してくるため、まずはガバメントクラウドの基本的な仕組みや役割を理解しておきましょう。
- 本記事の内容は公開日時点の情報です。
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