日本 は地震や台風などの自然災害が多く、大規模な災害がいつ発生してもおかしくありません。未曾有の被害をもたらした東日本大震災から今年で15年という節目を迎えますが、多くの病院では、非常用発電機の導入や食料・医薬品の備蓄など、災害対策がすでに進められていることでしょう。
しかし、見落とされがちなのが「通信ネットワークの備え」です。
現代の医療現場では、災害時に通信・ネットワークが途絶えると、電力が確保できていても「電子カルテを参照できない」「検査オーダーを出せない」といった事態に陥り、診療機能が停止してしまう恐れがあります。
そこで本記事では、病院のBCP(事業継続計画)におけるネットワークの重要性と、災害に強いITインフラを構築するためのポイントを解説します。災害時にも診療を継続するために、院内ネットワークの備えを考えるうえでの手がかりとしてご活用ください。
病院BCPとは?災害時に求められる役割
「BCP(Business Continuity Plan:事業継続計画)」という言葉を耳にする機会が増えましたが、具体的にどのような対策が必要で、なぜ病院において特に重要視されるのでしょうか。
まずは、病院におけるBCPの基本的な考え方と、一般企業との違い、そして現代医療におけるITインフラの立ち位置について整理していきましょう。
病院BCP(事業継続計画)とは
病院 BCPとは、地震や水害、火災といった緊急事態に遭遇した際、診療などの医業継続を中断させない、あるいは中断しても可能な限り短い時間で復旧させるためにあらかじめ策定しておく計画のことです。
厚生労働省も医療機関におけるBCP策定を強く推奨しており、これは単なる「防災マニュアル」の枠を超えた、病院経営における重要な戦略指針として位置付けられています。
具体的には、職員がどのような基準で病院に集まるか(参集基準)、限られた人員・物資の中でどの診療を優先するかといったルールを定めます。災害時であっても地域医療の拠点として機能し続けることは、病院に課せられた最大の責務です。そのため、不測の事態においても医療を継続できる、具体的かつ実効性のある計画の策定が求められます。
一般企業のBCPとの違い
病院BCPが一般企業のそれと大きく異なる点は、「災害時であっても事業(診療)を休止するという選択肢が事実上存在しない」ことです。
一般企業であれば、社員の安全を最優先にし、状況が落ち着くまで一時的に休業するという判断も可能です。しかし、病院には入院患者がいらっしゃいますし、災害時こそ、一刻を争う救急搬送が急増します。
地域医療の要として被災時も機能し続けるためには、システム復旧などにかけられる許容時間は極めて短くなります。「人命を守る」という重い社会的使命があるからこそ、どんな状況でも診療を止めないための強固な体制づくりが必要不可欠です。
医療ITインフラの重要性
現代の医療現場を想像してみてください。電子カルテを中心に、検査データの送受信、画像診断システム、ナースコールなど、あらゆる業務がシステム化され、密接に連携しています。
これら全てのシステムは、院内に張り巡らされた「ネットワーク」という共通の基盤(ITインフラ)の上で動いています。つまり、ネットワークが停止することは、即座に診療体制の麻痺を意味します。もはやITは単なる事務作業の効率化ツールではなく、電気や水、医療ガスと同じく、止まってはならない「医療ライフライン」となっているのです。
特に災害時は、救急搬送の急増や現場の混乱が予想されます。そのような極限状態こそ、スムーズな情報連携が命綱となります。医療のデジタル化が進めば進むほど、ネットワークの弱点がそのまま病院経営のリスクに直結するため、ITインフラを災害に負けないよう強くすること(強靭化)は、避けて通れない最優先課題といえるでしょう。
BCP対策の中でも、ITインフラに関する対策のことをIT-BCPと呼びます。本記事では災害対策を中心にお届けしていますが、他の様々なリスクについても一緒に対策を行うことで、より強靭な診療体制の構築につながります。
アライドテレシスの医療機関向けIT-BCP対策のページでは、災害の他にサイバー攻撃なども想定したソリューションをご紹介していますので、こちらもぜひ合わせてご覧ください。
災害時に発生しやすいITインフラのリスク
建物の耐震化などの対策は進んでいても、ITインフラという「情報のライフライン」の備えはどうでしょうか。ここでは、一般的な防災対策だけでは見落とされがちな、災害時特有のITインフラ(ネットワーク)のリスクについて解説します。
電源復旧後の通信断
災害対策として、非常用発電機を導入されている病院は多いでしょう。しかし、「電気が復旧すればシステムも動く」と考えるのは早計かもしれません。
仮に発電機によってサーバーが再起動したとしても、院内に張り巡らされたLANケーブルが断線していたり、各フロアでデータを中継する「スイッチ」や「ハブ」といったネットワーク機器が故障していたりすれば、通信を行うことはできません。
これは、心臓(サーバー)が動いていても、血管(ネットワーク)が詰まって血液が届かない状態に似ています。診察室のパソコンから電子カルテが見られず、結果として診療がストップしてしまう事態は十分に起こり得ます。電源を確保するだけでなく、「情報の通り道」であるネットワークそのものの継続性を確保することが、BCPの盲点を防ぐ重要なポイントです。
浸水や破損による機器故障
ネットワーク機器は、邪魔にならないよう天井裏や機械室、あるいは建物の1階や地下といった目立たない場所に設置されるケースが一般的です。
しかし、この設置場所が災害時にはリスクとなることがあります。例えば、豪雨による水害が発生した際、低層階や床上に置かれた主要な通信機器が浸水し、病院全体の通信網が機能不全に陥る可能性があります。
また、停電からの復旧時に、一時的に大きな電圧・電流(サージ)が瞬間的に流れ込み、その衝撃で精密機器であるネットワーク機器が故障してしまうケースも少なくありません。
こうした物理的な弱点を解消するためには、機器の設置場所と経路を分散させる、転倒を防ぐ耐震ラックを採用する、あるいは雷サージ保護機能を施すなど、外部からの衝撃や電気的トラブルを防ぐための物理的な対策が不可欠となります。
アクセス集中によるシステム停止
物理的な被害がなくても、災害時には「通信の混雑」という目に見えないリスクが発生します。
災害発生直後は、情報収集のためのインターネット利用や、各部署間の連絡、安否確認などで、外部・内部ともに通信量が急激に増加します。それによりネットワークが処理できる容量を超えてしまうと、「輻輳(ふくそう)」と呼ばれる大渋滞が起こります。
このとき、何の対策もしていなければ、命に関わる電子カルテの重要なデータ送受信が、優先度の低い一般的な通信に押し流されてしまい、遅延したり停止したりする恐れがあります。
加えて、災害時には他の医療機関との患者受け入れ調整や、医薬品供給事業者・消防機関との緊急連絡など、外部との連携が平時以上に重要になります。これら命に関わる外部通信までもが混雑に巻き込まれてしまえば、院内だけでなく地域医療全体の機能維持に支障をきたしかねません。
非常時だからこそ、限られたデータの通り道( 帯域 )をどのように管理し、どの業務を最優先に通すかを決めておくことが、診療を維持するための大きな課題となります。
病院BCPのネットワーク構築で重要な3つのポイント
前述のようなリスクを回避し、災害時でも診療を止めないためには、どのようなネットワークを構築すればよいのでしょうか。
ここからは、病院のBCPの観点からネットワークを見直す際に押さえておきたい、3つの重要なポイントについて解説します。専門的な機器を導入する前に、まずは「設計の考え方」を整理していきましょう。
命に関わる通信を守る「優先制御」
災害時のアクセス集中によるシステム停止を防ぐために有効なのが、通信に優先順位をつける「QoS(Quality of Service:通信品質制御)」という技術です。
通常、ネットワーク上ではすべてのデータが平等に扱われます。しかし非常時には、電子カルテのデータも、職員が情報収集のために見るWebサイトのデータも同じように扱われると、回線が混雑して重要な通信が遅れてしまう可能性があります。
そこでQoSを設定し、あらかじめ「電子カルテや救急搬送に関わる通信は最優先する」と決めておきます。こうすることで、例えば事務系の通信が増えて帯域が圧迫されたとしても、道路に「緊急車両用の優先レーン」を作るかのように、重要な業務データだけはスムーズに通すことができます。
混乱した状況下でも、システム側で自動的に情報の交通整理が行われることが、安定運用の鍵となります。
復旧の基準を決める「目標復旧時間」
CPを単なる書類上の計画で終わらせず、災害時に本当に使えるものにするには、「いつまでに、どの状態まで戻すか」という具体的な数値目標が欠かせません。
ITインフラの復旧においては、主に以下の2つの指標を定義する必要があります。
- RTO(目標復旧時間): システム停止から「いつまでに」再開させるか
- RPO(目標復旧時点): バックアップデータを使って「どの時点」の状態まで戻すか
すべてのシステムを完璧に復旧させようとすると、どうしても無理が生じます。そこで重要になるのが、システムごとの「優先順位付け」です。
例えば、電子カルテは「止まったらすぐに再開し、データも1時間前までの状態に戻す(RTO:0時間/RPO:1時間)」とします。逆に、事務用のシステムは「明日までに直ればよく、データは昨日のバックアップがあればOK(RTO:24時間/RPO:24時間)」とします。
このようにシステムごとに目標を変えることで、限られた予算を重要な部分に集中させることができ、効率的な対策が可能になります。
担当者不在でも動ける「構成図」の常備
技術的な対策と同じくらい重要なのが、運用体制の備えです。
大規模災害が発生した際、院内のIT担当者が必ずしも現場にいるとは限りません。交通網の麻痺や担当者自身の被災により、現場スタッフが駆けつけられなかったり、遠隔で指示を仰ぐことすらできなかったりするケースが十分に想定されます。
そのような状況でも復旧作業を進められるよう、専門知識がないスタッフでも理解できる「最新のネットワーク構成図」を整備しておくことが重要です。
どのケーブルがどこに繋がっているか、予備機はどこに保管されているか、故障時の切り替え手順はどうするか。これらが一目でわかる図面やマニュアルを用意しましょう。
また、停電やシステムダウンでパソコンが開けない場合に備え、必ず「紙媒体」で印刷して保管しておくことも忘れてはならないポイントです。情報の「見える化」こそが、初動対応の遅れを防ぎ、早期復旧への近道となります。
災害に強い病院BCPに適したネットワーク機器選定基準
実効性のあるBCPを策定することに加え、実際に稼働するネットワーク機器の性能や信頼性も、診療を継続する上では非常に重要な要素となります。
最後に、災害に強い病院ネットワークを実現するために、どのような基準で機器(スイッチやルーター、無線LANなど)を選ぶべきか、具体的なポイントを解説します。
故障を前提とした冗長化
ネットワークの信頼性を確保する基本は、機器や通信経路を二重にする「 冗長化 (じょうちょうか)」という考え方です。
「機器はいつか必ず故障するもの」という前提に立ち、メインの機器が故障しても、 自動的に予備機器へと通信を切り替える「冗長化機能」を備えた製品を選定することが重要です。
こうした機能を備えた機器でネットワークを構成することで、万が一の故障時でも診療への影響を最小限に抑えることが可能になります。
あわせて、LANケーブルの通り道を物理的に分ける「ルート分散」も重要です。例えば、火災や地震で一箇所のケーブルが断線しても、別のルートを通って通信が継続できれば、そこが病院全体の致命的な弱点(単一障害点)になるのを防げます。「一つが壊れても全体を止めない」という仕組みこそが、災害に強い病院ネットワークの要となります。
迅速に対応できる保守サポート
機器の性能(スペック)も大切ですが、病院のBCPにおいては、それ以上に「有事のサポート力」を重視すべきです。
万が一、災害時にトラブルが発生した際、迅速に技術支援を受けられる体制が整っているか、トラブル発生時に即座に相談できる窓口があるかは、復旧作業において非常に重要な要素となります。
特に、緊急時に専門的な技術内容を即座に共有・理解できるサポート体制があること、現場の状況を正確に伝えられること、そして代替機器が物理的にすぐ届く配送網が確保されていることは、限られた時間の中で復旧を進める上で大きなアドバンテージとなります。
全国どこでも、いざという時に頼れる保守体制があるかという「運用面の安心感」こそが、24時間365日の稼働が求められる病院経営を支える力になります。
製品選定の際には、カタログスペックだけでなく、メーカーや構築ベンダーのサポート窓口の対応時間、最寄りの保守拠点からの駆けつけ時間、過去の導入実績における対応事例なども含めて、総合的に判断することをお勧めします。
長期運用と安定性の考慮
病院の設備更新サイクルは一般的に5〜7年と長く、一度導入した機器は長期にわたって使い続けることになります。そのため、導入後すぐに製造中止(販売終了)になり、修理部品が確保できなくなるような製品は、BCPの観点からは望ましくありません。
モデルチェンジが緩やかで、長期間にわたって同一品質の製品が提供され続ける「供給の安定性」に優れた製品を選ぶことが、長期的な運用コストの低減につながります。また、保守部品の在庫が十分に確保され、故障時の迅速な修理対応が可能な「部品供給体制」も、ダウンタイムを最小限に抑える上で欠かせません。
医療機関や自治体、公共インフラなど、高い可用性が求められる社会インフラで長年採用され続けている製品は、それだけ厳しい運用環境での信頼性が実証されているといえるでしょう。
製品の仕様書やカタログだけでなく、実際の導入事例やユーザーの評価、メーカーや構築ベンダーのサポート方針なども確認しながら、総合的に判断することをお勧めします。
まとめ
災害はいつ発生するかわかりません。病院BCPにおいて、電源の確保と同様に重要なのが「止まらないネットワーク」の構築です。電子カルテや検査システムをつなぐITインフラは、現代医療の生命線であり、その寸断は診療停止に直結します。
まずは、自院のネットワーク構成図を確認し、どこかに弱点がないか、機器のサポート期限が切れていないかといった現状把握から始めてみてはいかがでしょうか。
万が一の際に迅速なサポートが期待できる製品選びや、専門家の知見を上手に活用し、災害時でも地域医療を守り抜く、強固な基盤を築いていきましょう。
- 本記事の内容は公開日時点の情報です。
- 記載されている商品またはサービスの名称等はアライドテレシスホールディングス株式会社、アライドテレシス株式会社およびグループ各社、ならびに第三者や各社の商標または登録商標です。
\注目情報をメールマガジンでいち早くお届け/
あなたの業種に合わせた旬な情報が満載!
- 旬な話題に対応したイベント・セミナー開催のご案内
- アライドテレシスのサービスや製品に関する最新情報や、事例もご紹介!
あなたの業種に合わせた旬な情報をお届け!
旬な話題を取り上げたイベント・セミナー情報や、アライドテレシスの最新事例・サービス・製品情報をご案内します!








とは?