教育現場の情報セキュリティとは?学校特有のリスクと必要な対策

GIGAスクール構想 の推進により、教育現場では1人1台端末やクラウドサービスの活用が広がっています。学習環境の充実や校務の効率化が進む一方で、情報漏えいや不正アクセスなど、情報セキュリティ上の課題も見過ごせなくなっています。
教育現場では、成績情報や健康記録、保護者との連絡内容など、重要な情報を日常的に扱います。そのため、一般企業とは異なる学校特有の環境も踏まえた対策が欠かせません。

本記事では、教育現場で情報セキュリティが重視される背景をはじめ、学校特有のリスクや必要な対策について解説します。

目次

教育現場の情報セキュリティ

1人1台端末の整備や校務のデジタル化が進み、教育現場では端末・クラウド・ネットワークを活用する場面が増えています。それに伴い、学校が扱う情報の多くがデジタル化されており、情報セキュリティの重要性はこれまで以上に高まっています。
ここでは、教育現場で情報セキュリティが重視される背景と基本的な考え方、学校で扱う情報資産について整理します。

一般的な情報セキュリティ対策の手段や考え方についてはこちらでもご紹介していますので、合わせてご覧ください。

学校で情報セキュリティが重視される背景

文部科学省が進めるGIGAスクール構想により、全国の学校で1人1台端末や高速ネットワークの整備が進みました。これに伴って、クラウドサービスの利用も広がり、教育現場で扱う情報の量と種類は増えています。

例えば、学校では日常的に以下のような多くの重要情報を取り扱います。

  • 成績情報
  • 健康記録
  • 通学や家庭環境に関する情報
  • 保護者の連絡先や連絡内容
  • 学習履歴

こうした情報は、以前のように校内のみで管理・完結するものではなくなり、クラウドや持ち帰り端末を通じて校外でも扱われるようになりました。そのため教育現場では、情報を安全に扱いながら、授業や校務を安定して継続できる体制づくりが重要になっています。

教育情報セキュリティの基本

教育情報セキュリティとは、学校が保有する情報を適切に守りながら、授業や校務を継続できる状態を維持するための考え方です。単に情報漏えいを防ぐだけではなく、教育活動を止めないための取り組みでもあります。
その基本となるのが、情報セキュリティの3要素である「機密性」「完全性」「可用性」です。

  • 機密性:成績や健康情報などに、許可された人だけがアクセスできること
  • 完全性:情報が勝手に書き換えられないこと
  • 可用性:必要なときにシステムやデータを利用できること

また、学校で守るべき対象は、デジタルデータだけではありません。紙の書類や端末、USBメモリ、サーバー、ネットワーク機器なども重要な情報資産に含まれます。
このように守るべき対象が多岐にわたり、利用シーンも多様であるからこそ、「とにかく持ち出しを禁止する」といった一律に厳しい制限をかけてしまうと、日々の授業や校務に支障をきたしてしまいます。そのため、教育現場のセキュリティ対策では、情報を守ること自体を目的にするのではなく、教育の質や業務の継続性と両立できる形で整備することが重要です。

学校で扱う情報資産の整理

学校の情報資産は、大きく「校務系」と「学習系」に分けて考えられます。
校務系には、成績、指導要録、健康診断結果、人事情報、保護者連絡など、漏えい時の影響が大きい情報が含まれます。一方、学習系は、児童生徒が日常的に使う端末やクラウドサービス上のデータが中心です。利用者が多く、利用範囲も広いため、運用管理が複雑になりやすい特徴があります。
ただし、学習系の情報だから重要度が低いとは限りません。学習用の環境でも、個人情報や外部公開を前提としない情報を扱う場面はあります。
そのため、校務系・学習系といった区分だけで判断するのではなく、情報の内容や利用場面、アクセスする人の範囲を踏まえて対策を整理することが重要です。

教育現場特有のセキュリティリスク

教育現場の情報セキュリティでは、一般企業と共通するリスクに加え、学校特有の運用や利用環境に起因する課題もあります。
ここでは、教育現場で起こりやすい代表的なリスクを整理します。

教職員の運用リスク

教育現場における情報漏えいの原因には、高度なサイバー攻撃だけでなく、紛失、誤交付、誤送信といったヒューマンエラーも多く見られます。これは、業務の多忙さに加え、学校では紙の書類とデジタルデータが混在していることや、複数の場所を移動しながら情報を扱う場面が多いためです。

個人情報保護委員会「学校における個人情報の漏えい等事案を踏まえた個人情報の取扱いに関する留意点について(注意喚起)」でも、学校現場の漏えい等事案として、次のような事例が示されています。

  • 生徒の成績データ等が入った私物USBメモリを校長の許可なく校外に持ち出し、カバンに入れたまま飲食し、紛失した。
  • 生徒指導に関する情報を、誤って生徒が使用する1人1台端末に配信した。
  • 担当教諭間で情報共有をするはずが、誤って、個人情報が記録されたファイルを教員及び生徒の共有フォルダに保存してしまった。
  • 学年集会が行われた場所に生徒の家庭環境等を含む個人情報が記載された紙媒体を置き忘れたところ、生徒がスマホで撮影した。

また、同資料では、学校現場における漏えい等事案約450件の分析結果として、紙媒体に起因する事故が全体の約55%と半数を占める一方、情報共有ツールも含む電子媒体に起因する事故も約40%発生していることが報告されています。
紙媒体では紛失や誤交付、電子媒体ではメールの誤送信やUSBメモリの紛失、情報共有ツールなどの操作ミスが見られます。教育現場では紙による運用が依然として多いですが、デジタルツールの活用拡大に伴うリスクにも目を向ける必要があります。

このような事故を防ぐには持ち出しルールを明確化し、保存先の統一、データの暗号化、誤送信を防ぐ仕組みの整備が重要です。運用を整理しておくことで、現場の確認負担を減らし、事故の起きにくい環境をつくることができます。

児童生徒利用のリスク

教育機関の情報セキュリティが一般企業と大きく異なる点の一つは、未成年の児童生徒が日常的にシステムを利用していることです。
同資料では、学校関係者ではない第三者による不正アクセス事案だけでなく、生徒や教職員による不正アクセスや不適切な持ち出しによる漏えい等事案も少なからず発生していると指摘されています。実際に、児童生徒が関わる事例として、次のようなインシデントが報告されています。

  • 教員が所持していた生徒用アカウント一覧表を生徒が不正に入手し、他の生徒のアカウントに不正アクセスした。
  • 生徒が教員のID・パスワードを不正に利用し、個人情報にアクセスした。
  • 授業資料をプロジェクターで投影した際、教員専用のデータ保存領域のアクセスコードが画面上に表示され、生徒に閲覧・利用された。

こうしたリスクに対応するには、授業用資料と児童生徒の個人情報を保存する領域を分離することや、ID・パスワードを厳格に管理することなど、技術的・組織的な対策が不可欠です。加えて、同資料が指摘するように、児童生徒に対する情報モラル教育も軽視できません。
ルールの整備とあわせて継続的な指導を行い、児童生徒自身の理解を深めることが、トラブルの予防につながります。

サイバー攻撃と従来のセキュリティ対策の課題

従来の教育現場のネットワークセキュリティは、校内ネットワークの内側を安全な領域とみなし、外部との境界にファイアウォールなどの防御壁を設ける「境界型防御」が中心でした。
しかし、クラウドサービスの利用が拡大し、端末の校外持ち出しも進んだ今は、教職員や児童生徒が学校の外から学習サービスや校務システムにアクセスすることが当たり前になりました。そのため、校内ネットワークの内側と外側を明確に分けて守るだけでは、十分とは言えません。
加えて、教育機関は個人情報を多く扱う一方で、セキュリティの専門人材や、管理・運用にあてられる人員・時間が限られることもあり、対策が追いつきにくい傾向があります。
このため、従来の境界型防御だけに依存するのではなく、利用環境の変化に対応した新しいアクセス管理の考え方を取り入れていかなければなりません。

教育現場のセキュリティに関わる文部科学省ガイドライン

教育現場のセキュリティ対策は、各学校だけで個別に考えるものではなく、文部科学省のガイドラインを踏まえて進めることが重要です。近年は、クラウド活用や校務 DX の進展に合わせて、求められる対策の考え方も変わりつつあります。
ここでは、ガイドラインの要点と、見直しが求められるポイントを整理します。

文科省ガイドラインの要点

文部科学省は、教育現場には児童生徒や保護者の存在など、地方公共団体の他の行政事務とは異なる特徴があることを踏まえ、「教育情報セキュリティポリシーに関するガイドライン」を示しています。これは、主に教育委員会等が教育情報セキュリティポリシーを策定・見直しする際の参考となる資料です。
令和7年3月の改訂では、GIGAスクール構想の進展により教育現場のクラウド活用が進んでいることなどを踏まえ、主に次のような見直しが行われました。

  • 情報資産の分類・仕分け・管理方法の見直し
  • 次世代校務DX環境への移行に必要なセキュリティ対策に関する記載の見直し
  • 「強固なアクセス制御」の定義・解説に関する記載の見直し

こうした改訂からは、教育現場の実態に合わせて情報資産の扱いや対策を見直し、クラウド活用や校務DXに対応できるよう、継続的に情報セキュリティ対策を更新していく必要性が読み取れます。

セキュリティポリシーの見直し

クラウド活用や校務DXが進む中で、教育委員会や学校には、現在の運用に合わせてセキュリティポリシーを見直すことが求められています。ポリシーを実効性のあるものにするには、方針を示すだけでなく、現場で使えるルールや手順まで具体化することが重要です。
例えば、以下のような項目は事前に整理しておきましょう。

  • 重要な情報の扱い方
  • アクセス権限の設定
  • 端末持ち出し時のルール
  • トラブル発生時の報告先や対応手順

これらを明確にしておくことで、判断のばらつきを防ぎ、現場で迷わず対応しやすくなります。
また、クラウド利用が広がると、学校側が十分に把握できていないサービスやアプリが使われる可能性もあります。加えて、従来の校内システムとクラウドサービスが混在すると、アカウントや権限の管理が複雑になりがちです。
そのため、ポリシーの見直しでは、新しい利用環境に合わせて管理対象を整理し、無理なく運用できるルールに落とし込むことが大切です。

校務DXに伴うセキュリティ対策の変化

校務DXが進む中で、校務システムの運用は、従来のように外部ネットワークと切り離した環境を前提とするものから、クラウドを活用しながら安全性を確保する形へと変わりつつあります。
従来のネットワーク分離は、校務系情報を守るうえで有効な面がある一方、校務系と学習系で端末を使い分ける必要があることや、必要なデータを連携しにくいことなど、運用面での課題もありました。
今後は、利用者認証、通信の保護、端末管理、操作ログの取得といった対策を組み合わせながら、安全性と利便性を両立させることが重要です。こうした対策を適切に整備することで、現場の使いやすさを保ちながら、継続的な運用もしやすくなります。

具体的にはどんな対策ができるのか知りたい、という方はこちらも合わせてご覧ください。

教育現場で実践する3つのセキュリティ対策

教育現場のセキュリティを高めるには、単一の製品や一つの施策だけでは不十分です。利用者教育、アクセス管理、基盤整備を組み合わせながら、全体として対策を進める必要があります。
ここでは、教育現場で特に重要となる3つの対策を紹介します。

リテラシー教育とルール整備

情報セキュリティ対策は、技術的な仕組みを導入するだけでは十分ではありません。教職員や児童生徒が日常的に情報をどう扱うかまで含めて整備して、はじめて実効性が高まります。
具体的には、以下のような取り組みが挙げられます。

  • 定期的なセキュリティ研修の実施
  • パスワード管理やデータ持ち出しに関するルール整備
  • トラブル発生時の報告手順の明確化

重要なのは、個人の注意だけに頼るのではなく、ミスが起きにくい運用をつくることです。
また、児童生徒に対しても、年齢に応じた情報モラル教育を継続的に行っていきましょう。利用者全体のリテラシーを高めることで、ヒューマンエラーや不適切な利用の予防につながります。

安全なアクセス管理の基本

クラウド活用が進む教育現場では、「誰が」「どの端末を使って」「どの情報にアクセスできるか」を適切に管理することが重要です。
まず基本となるのは、IDの発行・更新・削除を適切に行うことです。退職者や異動者、卒業生のアカウントが残っていないかを定期的に確認し、利用者ごとに必要最小限の権限を設定する必要があります。
そのうえで、パスワードだけに頼るのではなく、端末情報や生体認証などを組み合わせることで、不正利用を防ぎやすくなります。さらに、利用状況に応じて追加の確認を求める仕組みを取り入れれば、リスクの高いアクセスへの対応も期待できます。
適切なアクセス管理を行うことで、情報漏えいやなりすましの防止につながるだけでなく、必要な人が必要な情報に安全にアクセスできる環境を整えられます。

利用環境全体で進める対策

これからの教育現場では、ネットワーク、端末、クラウドを別々に管理するのではなく、一体の利用環境として捉えなければなりません。教職員や児童生徒が校内外から学習サービスや校務システムを利用する以上、接続場所だけで安全性を判断することは困難だからです。
そのため、場所を問わずすべてのアクセスを常に検証する「 ゼロトラストセキュリティ 」の考え方に基づき、利用者本人であるか、利用端末が適切に管理されているか、アクセス先に応じた権限を持っているかを、組み合わせて確認できる仕組みが求められます。

例えば、以下のような対策を連携させることで、ゼロトラストセキュリティを前提とした利用環境全体の安全性を高められます。

  • 通信の暗号化
  • アクセス経路の制御
  • 異常な通信の検知
  • 端末の更新管理
  • クラウド上の権限管理やログ管理

特に1人1台端末環境では、端末数が多く利用場所も広いため、現場ごとに個別対応を続けるのは大きな負担になります。認証、端末管理、ネットワーク制御を連携させた基盤を整えることで、運用負荷を抑えながら、継続的に管理しやすくなります。
また、基盤を選ぶ際は、導入時の機能だけでなく、保守運用のしやすさやサポート体制、将来的な拡張性まで含めて検討しましょう。限られた人員でも運用しやすい環境を整えることが、安全性と利便性の両立につながります。

まとめ

GIGAスクール構想の進展により、教育現場では1人1台端末やクラウド活用が広がり、情報セキュリティの重要性はこれまで以上に高まっています。教育現場では、成績情報や健康記録、保護者との連絡内容など、重要な情報を日常的に扱うため、一般企業とは異なる特有のリスクを踏まえた対策が欠かせません。
対策を進める際は、文部科学省のガイドラインを踏まえながら、リテラシー教育や適切なアクセス管理、ネットワーク・端末・クラウドを一体で捉えた基盤整備を組み合わせて進めることが不可欠です。
情報を守ることはもちろん、教育活動の継続性や現場の運用しやすさまで見据えて、持続可能なセキュリティ環境を整えていきましょう。

  • 本記事の内容は公開日時点の情報です。
  • 記載されている商品またはサービスの名称等はアライドテレシスホールディングス株式会社、アライドテレシス株式会社およびグループ各社、ならびに第三者や各社の商標または登録商標です。

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この記事を書いた人

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IT初心者やエンドユーザーに向けて、「難しいことをわかりやすく」をモットーに執筆中。
仕組みの背景や用語の意味など「いまさら聞けない」ことも丁寧に説明するスタイルが信条です。
普段は猫と静かに過ごすのが好きなインドア派。

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