令和8年度の診療報酬改定により、これまでの医療DX推進体制整備加算・医療情報取得加算が「電子的診療情報連携体制整備加算」へと再編されました。「自院は何をすればよいのか」「加算の対象になるのか」といった疑問を持つ方に向けて、医療DXの基礎知識から今回の改定のポイント、経営判断に必要な視点までをわかりやすく解説します。
医療DXの基礎と、令和8年度改定までの経緯
まず、医療DXの基礎知識と、重要性が高まっている背景を整理します。
医療DXの定義とめざす姿
医療DXとは、電子カルテやオンライン資格確認等のシステムを活用し、医療現場の情報を電子的に記録・共有・分析できる基盤を整備する取り組みです。単に紙の記録をデータ化するだけでなく、医療機関どうしが情報を安全に連携し、患者にとって切れ目のない医療を実現することがめざす姿とされています。
医療DXが求められる背景
人口減少社会でも質の高い医療を維持していくには、限られた医療従事者で業務をこなせる仕組みや、患者が早く医療にアクセスできる環境が欠かせません。こうした目的を実現する手段として、医療DXの推進が位置づけられています。背景には、次のような課題があります。
- 医療従事者の人材不足が続くなかで、業務の効率化が急務であること
- 紹介状や検査結果のやり取りが紙・FAX中心の医療機関が依然として多く、情報連携に時間がかかること
- 災害時や感染症流行時に、患者の医療情報を医療機関間で迅速に共有する必要性が高まっていること
こうした状況を受け、国は電子カルテ情報共有サービスやオンライン資格確認等システムの整備を進め、医療DXを診療報酬上でも評価する方向に舵を切っています。
令和8年度診療報酬改定でみる医療DXの位置づけ
ここからは、加算の再編内容と、自院に求められる対応を見ていきます。
加算の再編内容と評価軸の変化
令和8年度診療報酬改定では、従来の医療DX推進体制整備加算・医療情報取得加算が整理され、「電子的診療情報連携体制整備加算」として再編されました。
評価区分は、満たす施設基準の水準に応じて加算1〜3の3段階に分かれており、点数の目安は次のとおりです。
| 区分 | 初診時 | 再診時 | 入院初日 |
|---|---|---|---|
| 加算1 | 15点 | 2点 | 160点 |
| 加算2 | 9点 | 2点 | 80点 |
| 加算3 | 4点 | 2点 | なし |
いずれの区分でも、マイナ保険証利用率30%以上などの共通要件を満たしたうえで、加算1は電子処方箋・電子カルテ導入・電子カルテ情報共有サービスの活用の3項目すべてへの対応が必要となり、加算2はこの3項目のうちいずれか一つへの対応で満たされます。
今回の再編のポイントは、評価の軸が「導入しているか」という体制面から「実際に運用しているか」という運用面へと移った点にあり、非常時にも情報連携が滞らない継続体制を備えているかも重要な視点になっています。

対象となる医療機関の範囲と求められる体制
医療DXの取り組みは病院・診療所を問わず対象となりますが、実際の加算取得には施設基準の届出が必要です。対応できる医療機関の範囲は電子カルテの整備状況などにより異なるため、自院がどの段階にあるかを把握することが出発点になります。あわせて、施設基準を満たすだけでなく、情報セキュリティ対策やBCP(事業継続計画)が整い、その体制を院内外に説明できることまでが、実質的に求められる水準になりつつあります。
- 自院の電子カルテが電子カルテ情報共有サービスに接続できる状態にあるかを確認すること
- 施設基準の届出内容と実際の運用に齟齬がないか、定期的に点検すること
- 情報連携を担う院内の運用ルール(誰が、いつ、何を共有するか)を整備すること
電子処方箋やマイナ保険証の活用状況など、他の医療DX施策とも評価の連動が進んでいるため、単独の加算対応ではなく、自院の医療DX全体の進捗のなかで今回の改定を位置づけて考えることが望まれます。
算定を継続するための留意点
施設基準の届出後も、算定要件を満たし続けているかの継続的な確認が必要です。同意取得の流れの整備に加え、必要な情報をいつでも参照できる状態や、安全管理ガイドラインに基づくセキュリティ対策など、体制整備全体を点検することが求められます。疑義が生じた際は自己判断せず、地方厚生局へ早めに照会する姿勢が実務上のトラブルを防ぎます。
医療DXに取り組むことで得られるメリット
医療DXへの投資には、電子カルテ情報共有サービスとの連携をはじめ、さまざまな取り組み方があります。ここでは、「本当にDXへ投資すべきなのか」「経営層をどう説得すればよいのか」という疑問に応えるべく、医療DXに取り組むことで得られる具体的なメリットを整理します。
医療機関間連携で得られるメリット
医療DXへの取り組みが進むと、医療機関間の連携において次のようなメリットが期待できます。例えば電子カルテ情報共有サービスとの連携が実現すれば、次のような効果が見込めます。
- かかりつけ医から紹介先の専門医療機関への情報提供が、紙の紹介状に頼らず行えるようになること
- 救急搬送時に、搬送先の医療機関が既往歴やアレルギー情報を迅速に確認できること
- 複数の医療機関にかかっている患者の重複検査や重複投薬を減らせること
このように、患者本人が説明しなくても必要な情報が共有される仕組みが広がりつつあります。接続にはオンライン資格確認等システムの導入に加え、電子カルテ側のシステム改修や院内の運用ルール整備が必要になるため、自院の電子カルテメーカーへ早めに対応時期を確認しておくことが望まれます。
患者側のメリット
情報連携が進むことで、患者は転院・紹介時に同じ検査を繰り返す負担が軽減されるほか、意識不明で搬送された場合でも既往歴やアレルギー情報をもとにした処置を受けやすくなります。医療機関側も、限られた診療時間のなかで必要な情報に素早くアクセスできることが、医療安全の向上につながります。
投資対効果をどう考えるか
医療DXへの投資には費用と手間がかかるため、投資に見合う効果があるのか判断に迷う医療機関も少なくありません。しかし、重複検査や重複投薬の削減、紹介状作成の事務負担軽減など、日常業務で積み重なる効果は小さくなく、単年度の収支だけでなく中長期的な視点もあわせた投資判断が望まれます。
多くの病院が厳しい財政状況に置かれるなかで、経営基盤の維持は地域医療を続けるためにも大切な視点であり、診療報酬上の評価はその維持にもつながります。
医療DX推進を支えるネットワーク基盤の考え方
DXを推進するうえでは、まずその基盤となるITインフラが重要になります。現在のネットワーク基盤が十分な性能を持っているか、強化すべき点はないかの確認が、医療DXへの対応を円滑に進める土台になります。
ネットワーク基盤に求められる性能とセキュリティのバランス
医療機関間で診療情報をやり取りする以上、ネットワークには高い機密性と可用性が求められます。オンライン資格確認等システムへの接続には、専用回線や IP-VPN 、クローズドなネットワーク環境など、外部からの不正アクセスを防ぐ設計が前提となり、こうしたセキュリティ対策は「医療情報システムの安全管理に関するガイドライン」に沿って進めることが基本になります。
さらに、この可用性を支えるうえでは、日々の診療業務における通信の快適性も欠かせません。診察室や病棟など場所によって有線LANと無線LANを使い分け、電子カルテ端末や医療機器が安定して通信できる環境を整えることも、あわせて検討すべき視点です。
外部システムとの接続設計とセグメント分離の考え方
オンライン資格確認や電子カルテ情報共有サービスとの接続では、院内ネットワークと外部ネットワークの境界を明確にし、想定外の経路からアクセスされないようにする設計が重要です。院内のセグメントを用途ごとに分け、医事会計システムや医療機器のネットワークと外部連携用のネットワークを分離しておくことで、万一のトラブル時にも影響範囲を限定できます。
整備の進め方と既存インフラの活用
すべてを一度に整備しようとすると、費用面・体制面の負担が大きくなりがちです。自院の現状に応じて、段階的に進めましょう。
例えば、オンライン資格確認等システムへの接続を確実にしたうえで電子カルテ情報共有サービスとの連携、セグメント見直しという順序で段階的に進める考え方もひとつの選択肢ですが、あくまで一例です。院内のIT担当者だけで抱え込まず、ネットワーク機器のベンダーや医療系システムに知見のある事業者に相談することも有効です。
また、既存の配線や機器を全入れ替えする必要はなく、現在のインフラを活かしながら不足機能を補う発想も重要です。院内Wi-Fiや通信機器を見直すタイミングでセグメント分離やログ管理の仕組みを段階的に組み込めば、費用負担を抑えつつ対応できます。整備後もアクセスログの確認や不審な通信の監視を続け、制度改定のたびに柔軟に構成変更できる環境を保つことが、長期的な運用負担の軽減につながります。
医療DX推進体制整備における4つの課題と対策
医療DXの推進にあたっては、いくつかの課題が想定されます。ここでは代表的な4つの課題と、それぞれの対策の考え方を整理します。
コスト・体制面の課題と対策
電子カルテの改修や接続対応には一定の費用がかかり、中小規模の医療機関ほど負担感が大きく、専任のIT人材を確保しづらいという声も少なくありません。
対策としては、医療分野の情報化を推進する基金やITツール導入費用の補助制度など、国や都道府県の支援策の活用が有効です。自院単独での対応が難しい場合は、外部の専門知見の活用も選択肢のひとつです。
情報セキュリティ対応の課題と対策
外部との情報連携が広がるほど、サイバー攻撃を受けた際の影響範囲も大きくなります。ランサムウェア被害で電子カルテが使えなくなる事例も報告されており、医療DXの推進とセキュリティ対策は表裏一体で検討する必要があります。
対策としては、院内ネットワーク構成と外部接続点の把握、職員向けセキュリティ研修の実施など、具体的な取り組みを接続対応と同時並行で進めることが重要です。
運用定着の課題と対策
加算の届出が完了しても、日々の診療のなかで情報連携の運用が定着しなければ、制度が想定する効果は得られません。院内の役割分担や患者への同意取得の流れなど、運用ルールづくりには一定の時間がかかります。
対策としては、届出時点から運用担当者を明確にし、定期的に運用状況を振り返る機会を設けることが有効です。
地域連携の課題と対策
情報連携の効果は、自院の対応だけでなく紹介先・紹介元の医療機関側の対応状況にも左右され、地域内でばらつきがあると期待した連携効果が得られない場合もあります。
対策としては、地域医師会や近隣医療機関との情報交換を通じて、連携先の対応状況を把握しておくことが欠かせません。
まとめ
令和8年度診療報酬改定により、医療DX関連の加算は「情報を取得しているか」から「情報を活用し連携しているか」を評価する仕組みへと再編されました。
電子カルテ情報共有サービスなどとの接続や院内の運用ルール整備は、制度対応であると同時に、患者にとってのメリットや医療安全の向上にも直結します。あわせて、ネットワーク基盤のセキュリティ対策も欠かせません。
制度対応を単なるコストではなく、医療安全と経営基盤の強化につながる投資として捉え、次の改定も見据えた体制づくりを進めていくことが、変化の激しい医療DXの分野では特に求められます。院内だけで判断がつかない場合は、早い段階で外部の専門家に相談することが確実な近道になります。まずは自院の現状を確認しながら、段階的な対応を進めていきましょう。
- 本記事の内容は公開日時点の情報です。
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