文部科学省から発表された令和8年度予算の概算要求。その中でも、GIGAスクール構想にかかわる事業は予算が大幅に増額されています。政府が推進する施策のポイントと、それを支える学校DX基盤整備に必要な取り組みについて解説します。
令和8年度のGIGAスクール関連予算の要求増額とその背景
令和8年度に向けて、文部科学省から予算の概算要求が発表されました。多くの項目が令和7年度と比べて増額していますが、中でも特に大幅な増額となっている項目の一つが、GIGAスクール構想関連の事業です。
「GIGAスクール構想支援体制整備事業」は前年度5億円から令和8年度は37億円、「GIGAスクール構想の推進~1人1台端末の着実な更新~」は前年度3億円から120億円+事項要求と、いずれも大きく要求額が上がっています。
出展 :令和8年度文部科学省 概算要求等の発表資料一覧:文部科学省
その背景には、教員の労働環境と快適な授業環境の整備にかかわる課題・計画があります。
校務DXのための環境整備
文部科学省は、進めるべき取り組みの一つとして、校務DXを通じた教員の働き方改革の加速を掲げています。「GIGAスクール構想支援体制整備事業」の他に、新規で「校務DX等加速化事業(3億円)」が計上されていることからも重要性が伺えます。
具体的な施策として掲げられているのが、パブリッククラウドを前提とした次世代校務DX環境への移行です。これは令和8年度から4年間をかけて順次進められる施策ではありますが、今のところその整備率は6.1%にとどまっており、国は抜本的な拡充が必要としています。
1人1台端末の更新
もう一つの課題は、児童生徒が使う端末の更新です。
GIGAスクール構想第1期における1人1台端末の整備は、令和元年度と令和2年度補正予算で集中的に行われたため、導入が早かったところでは6~7年目を迎えることになります。
一方で端末の耐用年数はおおよそ5年程度が一般的です。バッテリーの劣化やOSのサポート切れなどにより、次第に導入当初のような使い方は難しくなっていきます。
次世代校務DX環境への移行と端末更新のポイント
都道府県内で共同利用できる校務DX環境への移行
次世代校務DX環境移行のポイントは、「パブリッククラウド環境」と「都道府県域での共同調達・共同利用」です。
都道府県でクラウド型の校務支援システムを共同利用していれば、異動先の学校でも同じシステムが使えるというメリットがあります。教員の人事異動に伴う負担の軽減、児童・生徒が転校してもデータを引き継ぐことができる点など、働き方改革とデータ利活用の両面が期待されています。
また、次世代校務DX環境の整備にあたっては、校務系・学習系ネットワークの統合やネットワーク環境の実態調査といった、クラウド環境を使いやすくするための準備も必要となります。
5年程度をかけた計画的な端末更新
GIGAスクール構想第1期で全国の小中学校の児童・生徒に配布された端末の総数は約950万台にのぼり、これに加えて高等学校にも端末配布を行っている自治体もあります。
既に今年(令和7年度)から更新のピークを迎えていますが、メーカーからの供給や使わなくなった端末の処分、更新にかかる現場の業務などを考えると、集中的な更新は困難といえます。このため、国は5年程度をかけて計画的に端末を更新するよう呼び掛けています。
さらに、端末の故障で子供たちの学びが止まってしまわないよう、今回は予備機も一体的に整備することが推進されています。
学校DXを支える基盤も合わせて整備することが大切
これらの計画を進める上で、文部科学省はGIGAスクール構想第2期(NEXT GIGA)を強力に推進する基盤整備を急務としています。
では、具体的にどんな取り組みが必要で、国からどのような支援が得られるのでしょうか。「GIGAスクール構想支援体制整備事業」の内容を見ながら以下の3つのポイントに絞って解説します。
参考:01 令和8年度文部科学関係概算要求のポイント<PDF>
学校ネットワーク環境の改善
1人1台端末の更新とセットで、GIGAスクール構想のもう1つの柱である「高速大容量の通信ネットワーク」も見直しが求められています。
通信の遅延・停止が授業に支障をきたすと教育格差にもつながってしまうおそれがあるためです。
GIGAスクール構想第1期では、端末と同時に学校のネットワークも整備されました。しかし、いざ使い始めたら大勢の同時接続に耐えられず、通信が不安定になってしまった…という学校も少なくありません。今後、デジタル教材の活用が増えたり、校務DXが進んだりすることでだんだんとネットワークの性能が追い付かなくなってくる可能性もあります。BYODを導入している学校の場合、帯域がひっ迫しても端末側に制限をかけられないため、ネットワーク側で対処が必要です。
加えて、ルーターや無線LANアクセスポイントなどのネットワーク機器も、時間とともに性能が低下していきます。多くのメーカーで保守・保証期間は5~7年程度に設定されており、これを過ぎると故障した時に素早く修理・入れ替えを行うことが難しくなるため、通信障害のリスクが大きくなります。
ポイント
文部科学省が発表している「学校規模ごとの当面の推奨帯域」の確保がポイントです。実際に授業で端末を活用している学校の実測データをもとに、児童生徒の人数に応じた推奨帯域がまとめられています。
参考:学校のネットワーク改善ガイドブック(令和7年6月版)<PDF>
まずは「ネットワークアセスメント」(ネットワークの分析・評価)を行い、通信環境の現状や遅延・不具合の要因を把握しましょう。
調査結果に応じて、ネットワーク機器の配置換えや新しい機器へのリプレース、回線サービスの見直しを実施するのが効率的です。
概算要求のポイントによると、「(2)学校の通信ネットワーク速度の改善」で、アセスメント結果を踏まえた機器の入れ替えや設定変更にかかる初期費用を支援すると記載されています。
支援対象はアセスメント実施済みの学校に限られる点には注意が必要です。
教育情報セキュリティポリシーの策定
児童・生徒の個人情報、機密情報を守るためにはセキュリティ対策も欠かせません。そのために「具体的にどんな情報を守るのか?」「どんな方法で守るか?」といった、セキュリティ対策の方針や行動指針を示すものが「セキュリティポリシー」です。
業態や取り扱う情報によって最適なセキュリティ対策は異なるため、組織の特徴に応じて独自の内容で策定することが求められます。
ところが、教育委員会が独自のセキュリティポリシーを策定している割合は、令和6年度時点でまだ5割ほどということです。自治体などと共通の情報セキュリティポリシーを利用しているケースもありますが、教育現場ならではの特徴やリスク、求められるセキュリティ水準の違いなどもあるため、注意が必要です。
ポイント
文部科学省から公表されている「教育情報セキュリティポリシーに関するガイドライン」を参考に策定しましょう。組織体制や情報資産の管理、物理的・人的・技術的セキュリティ、運用体制まで、押さえておくべきポイントの例文と解説が詳しく載っています。
参考:「教育情報セキュリティポリシーに関するガイドライン」公表について:文部科学省
とはいえ、実際のセキュリティポリシー策定をすべて自力で行うのは大変なため、専門家の支援を受けることが想定されています。
「(3)学校DXのための基盤構築」の中に、教育情報セキュリティポリシーの策定/改定支援も含めた、「学校DXに向けた技術的なコンサルタントに要する経費の支援」が盛り込まれています。
教員のICTリテラシー向上
ICTを授業や校務に活用し、児童・生徒に適切な使い方を指導するためには、まず教員が正しい知識を持ってICTを使いこなす必要があります。端末やデジタル教材の活用方法だけでなく、ICTやネットワークの基礎、セキュリティの知識も大切です。
しかし、すべての教員がすぐに詳しい知識を身につけられるわけではありません。日々の業務との兼ね合い、専門領域の違いや馴染みの薄さからくる苦手意識などの課題もクリアしていくことが求められます。
急な困りごとやより専門的な領域については、多くの自治体でICT支援員が現場のサポートを行っています。が、文部科学省が求める配置水準の4校に1人に対して、令和5年度末時点では4.5校に1人、自治体別では3割が未配置と、まだ不足している状態です。
ポイント
効率よく・着実に知識を身につけられる研修制度や、困ったときに助けを求められるサポート体制の充実化を図ると良いでしょう。
文部科学省のサイトには教員のICT活用指導力の向上に関する情報もまとまっており、「教員のICT活用指導力チェックリスト」などが公開されています。これらを参考に教員のICTリテラシーをチェックし、研修計画を立てるのがおすすめです。
研修プログラムや教材コンテンツには、国・自治体が用意しているものから民間サービスまで様々なものがあるため、自校の環境で活用しやすいものを選びましょう。
また、外部の専門家によるサポートも活用していくのがポイントです。ベンダーに問い合わせる、ヘルプデスクなどの支援業務を委託する、簡単に運用できる環境整備から支援してもらうという手段もあります。
これも「(3)学校DXのための基盤構築」の中に「端末利活用等の専門家による支援」が含まれており、利用するサービスにもよりますが「学校DXに向けた技術的なコンサルタントに要する経費」として支援が受けられる可能性があります。
まとめ
令和8年度は次世代校務DX環境への移行と端末の更新、そしてこれらの推進を支える学校DXの基盤整備がポイントになります。
これに向け、現場では学校ネットワーク環境の改善、教育情報セキュリティポリシーの策定、教員のICTリテラシー向上などの取り組みが必要です。
予算案の閣議決定はまだこれからですが、令和8年度予算の事業と支援内容、補助事業などをよくチェックして、学校のICT環境整備・改善の計画を立てましょう。
アライドテレシスでは、ネットワーク機器専業メーカーによるアセスメントサービスやセキュリティ対策、IT人材育成に向けた教育・研修サービスなどで、学校DX基盤整備をサポートしています。
「早めに考えておきたい」「まずは情報収集がしたい」という場合にもぜひお気軽にご相談ください。
2025年5月21日には、一般社団法人 教育ICT政策支援機構 代表理事で文部科学省 学校DX戦略アドバイザーの谷 正友 氏をお招きし、NEXT GIGAと次世代校務DXが抱える課題とその解決策について、ネットワークの重要性に焦点をあて実現に向けたポイントを解説するオンラインセミナーを開催しました。
政府の方針や現場の取り組みについてより詳しくご紹介していますので、情報収集や施策検討にぜひご活用ください。

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