防災拠点の無線LANインフラ整備に何が必要?平時と災害時の両立術

避難所に指定されている学校や公共施設では、災害発生時の通信手段をどう確保するかが大きな課題となっています。総務省が示す「防災等に資するWi-Fi環境の整備計画」のもと、防災拠点でのWi-Fi整備は各地で進みつつありますが、平時の活用と災害時への切り替えをどう両立させるかという設計面の悩みを抱えている担当者も少なくありません。
本記事では、防災拠点における無線LANインフラ整備の背景から、費用面の支援策、設計上の注意点までを解説します。

目次

防災分野における無線LANインフラ整備の背景

まず、防災拠点における無線LANインフラ整備がなぜ求められているのか、その背景を4つの視点から見ていきます。

なぜ防災拠点にWi-Fi整備が求められているのか

大規模災害では、固定電話や携帯電話の音声回線がつながりにくくなる一方、多くの被災者がスマートフォンで情報収集を行うことが分かっています。「熊本地震における被災地のWi-Fi利用状況等に係る調査研究」でも、被災者の6割以上がスマートフォンを情報収集の手段としていたことが確認されており、避難所における無線LAN環境の重要性を裏付けています。
また、特定の回線や手段のみに依存すると、その回線が被災した際に通信手段そのものを失ってしまうため、複数の通信手段を組み合わせて確保しておくことも重要な考え方です。

避難所指定校とGIGAスクール構想との関係

公立小中学校の多くは避難所に指定されています。 GIGAスクール構想 により普通教室の無線LAN整備は大きく進んだものの、体育館等の避難所スペースを含めた整備は依然として途上にあります。
GIGAスクール構想により1人1台端末の活用が進む中、平時の授業活用と災害時の避難所利用という2つの役割を、同じネットワーク基盤でどう両立させるかが整備計画上の論点になっています。

整備が求められる範囲

無線LANインフラの整備が求められているのは学校だけではありません。災害時に住民が集まる以下のような拠点全般で、同様の課題があります。

  • 医療機関:診療継続や患者・来訪者への情報提供のための通信確保
  • 公民館・庁舎:避難者の受け入れや行政の災害対応拠点としての通信確保
  • その他の指定避難所:地域の実情に応じた通信手段の確保

拠点の種類によって求められる回線容量や運用体制は異なるため、それぞれの施設特性に応じた整備計画が必要です。

過去の災害から見えてきた通信面の教訓

過去に行われたある地域の実証実験では、災害用の統一 SSID と専用ポータルサイトの有効性が検証されましたが、「説明がなければ4割の参加者が利用できない」という結果も明らかになりました。機器を整備するだけでなく、住民にどう使い方を周知するかが、実際の災害時に通信環境を機能させるための重要な教訓として残っています。

整備費用と活用できる財政措置

整備を検討するうえで気になるのが費用面です。ここでは活用できる財政措置を中心に解説します。

防災拠点整備における費用面のハードル

無線LAN機器の導入には機器の購入費に加え、配線・工事費用がかかるうえ、複数拠点に展開する場合はまとまった予算の確保が必要になります。限られた財源の中で防災関連の投資に優先順位をつけることは、多くの自治体・施設管理者にとって共通の悩みです。複数年度に分けて整備範囲を広げていく自治体もあり、単年度で全拠点を整備しきる必要はありません。

緊急防災・減災事業債の活用

費用面の負担を軽減する手段として、総務省の「緊急防災・減災事業債」があります。
令和8年4月1日付の総務省通知では、指定避難所等における避難生活環境の改善を目的として、空調やバリアフリー設備の整備とあわせて、Wi-Fi環境の整備にも活用できる地方債とされており、事業期間も令和12年度まで延長されています。対象事業によっては元利償還金の一部が地方交付税で措置される仕組みがあり、自治体の実質的な負担を抑えながら整備を進められる可能性があります。

地上の通信インフラが被災した場合の備えとして、緊急防災・減災事業債では衛星通信システムの整備も対象に含まれており、SpaceX社の衛星通信サービス「Starlink」を活用してWi-Fi環境を用意する選択肢も注目されています。

実際に、可搬型の衛星通信パッケージを電波の通じにくい山間部の建設現場に設置し、通信環境を確保した活用事例も紹介されています。

活用にあたっての留意点

対象範囲や交付税措置率は年度ごとの制度改正で変更されることがあるため、消防庁の通達など最新情報を必ず確認してください。本記事の記載内容は令和8年4月時点の総務省通知に基づきます。
また、財政措置の内容を前提に予算計画を組み立てることで、整備の優先順位を明確にしやすくなります。

庁内の合意形成という観点

財政措置が用意されていても、実際に予算化するには庁内での合意形成が必要です。防災部門だけでなく、教育部門や情報システム部門など関係部署と早い段階から連携し、整備の目的とメリットを共有しておくことが、スムーズな予算化につながります。

平時と災害時を両立させる設計のポイント

ここでは、平時と災害時を両立させるための設計のポイントを4つ紹介します。

用途に応じたネットワークの切り分け

平時は授業や庁内業務で使うネットワークと、災害時に住民へ開放するネットワークを、あらかじめ切り分けて設計しておくことが基本です。
電気通信事業者等が無料開放する災害用統一SSID「00000JAPAN(ファイブゼロジャパン)」を用意し、発災時に認証不要で使えるようあらかじめ設定しておくことで、混乱の中でも住民がスムーズに接続できるようになります。このような運用は全国的に広がりを見せています。切り替え操作を誰が・どのタイミングで行うのかを、あらかじめ避難所運営マニュアルに明記しておくことも欠かせません。

利用者数の想定とエリア設計

体育館や避難スペースなど、一時に多くの人が集まるエリアでは、想定される利用者数に応じたアクセスポイントの台数・配置設計が必要です。平時の教室利用とは異なる人数規模を前提にエリア設計を行うことがポイントです。避難者一人ひとりがスマートフォンを持ち込むことを前提に、想定避難者数に対して余裕を持った同時接続数を確保しておくと、実際の災害時にも安定した接続を保ちやすくなります。

利用手続きの簡素化

あらかじめ認証不要で使えるようにしておくことで、毎回のID・パスワード入力を不要にし、混乱の中でも迅速に接続できるようにしておくことが重要です。その仕組みの一つとして、世界共通のIDで安全に公衆Wi-Fiへ接続できる「OpenRoaming」も選択肢の一つです。医療機関や教育機関、観光地などの公共分野でも導入が進んでおり、平時の来訪者利便性の向上と、災害時の円滑な接続の両面でメリットが期待できます。

運用開始後の周知・訓練の重要性

設計を工夫しても、実際に災害が起きたときに現場の職員や住民がその仕組みを知らなければ十分に活用されません。

名古屋市防災危機管理局では、市内372か所の小中学校体育館等に、災害用SSID「00000JAPAN」で接続できるWi-Fi環境を整備し、ルーターとアクセスポイントを一体化したセットを体育館の情報コンセントに接続するだけで使える仕組みを構築しています。あわせて、地域と連携した平時からの運用訓練や、市民への周知にも継続的に取り組んでいます。

機器の整備と同じくらい、運用開始後の周知・訓練が実際の災害時の使いやすさを左右します。

整備における4つの課題

無線LANインフラを整備する際に押さえておきたい、代表的な4つの課題を紹介します。

回線容量と同時接続数の確保

避難所には短時間で多数の人が集まるため、想定される同時接続数に耐えられる回線容量とアクセスポイントの選定が欠かせません。特に大規模災害では、周辺エリアからの避難者が想定人数を上回って集中することもあるため、余裕を持った設計が求められます。回線事業者が提供するベストエフォート型の回線だけに頼ると、混雑時に速度が大きく低下するおそれがある点にも留意が必要です。

セキュリティとプライバシーへの配慮

災害時に認証不要で接続できるようにすることは利便性を高める一方、通信内容が第三者に傍受されるリスクを高める面もあります。
対策としては、機密性の高い通信は災害時Wi-Fi経由で行わないよう利用者へ周知することに加え、暗号化を保ったまま認証不要接続を実現する「Enhanced Open」に対応したアクセスポイントを選定することも有効です。

停電時の電源確保

災害時は停電が発生しやすいため、無線LAN機器自体の電源をどう確保するかも設計上の重要なポイントです。太陽光と蓄電池を組み合わせた電源システムを導入する事例も報告されています。非常用電源で稼働できる時間には限りがあるため、消費電力の少ない機器を選定するとともに、優先的に稼働させるべき機器をあらかじめ決めておくことも実務上のポイントです。

複数拠点をまたいだ整備の優先順位付け

自治体内に避難所が多数ある場合、すべてを同時に整備することは難しいため、想定避難者数や過去の避難実績、被災リスクの高さなどをもとに優先順位を検討することになります。優先度の考え方を整理しておくと、財政措置の申請や庁内説明の際にも根拠を示しやすくなります。

安定運用を支える機器選定と保守体制

最後に、整備後の安定運用を支える機器選定と保守体制のポイントを紹介します。

通信を止めないための機器選定

停電からの復電後に機器が正常に立ち上がらない、というトラブルを防ぐには、LANケーブル経由で電力を供給できる PoE (Power over Ethernet)スイッチのうち、電源異常を検知して自動的に再起動できるタイプの選定が有効です。あわせて、機器や経路の一部が故障しても通信を継続できる冗長化機能を備えておくと安心です。

さらに、故障時に専門知識がなくても交換だけで設定が自動復元される機能を備えた機器・ネットワーク管理ソリューションを取り入れておくと、復旧対応をより確実にできます。

長期運用に耐える機器の選定

災害時には空調のない場所や屋外の復旧作業現場など、過酷な環境に機器を設置することも考えられます。屋外に設置する機器は、真夏の高温や真冬の低温、豪雨といった過酷な環境でも安定稼働できることが求められます。動作温度範囲が-40〜65℃で、防水・防塵性能を備えた屋外向けアクセスポイントを選ぶことで、長期運用時の故障リスクを抑えられます。

平時の活用も見据えた投資判断

防災用途だけに機器を限定せず、平時は教育や行政サービスの向上に活用しながら、平時はクラウド管理型のプラットフォームで複数拠点の稼働状況をまとめて把握し、災害時には同じ基盤を活用して迅速に状況確認を行う、という投資判断も有効です。日常的な利用実績を踏まえた保守計画を立てやすくなるほか、平時から使い続けることで不具合の早期発見にもつながります。
医療機関のように災害時でも業務を止められない施設では、ネットワークを自施設の事業継続計画(BCP)の一部として位置づける考え方も参考になります。

保守・サポート体制の確認

災害はいつ発生するか予測できないため、整備後の安定運用には、機器の稼働状況を遠隔から監視し、異常時に迅速に対応できる保守・サポート体制の有無も確認しておきたいポイントです。

まとめ

本記事では、防災拠点における無線LANインフラ整備について、求められる背景から費用面の支援策、平時と災害時を両立させる設計のポイントまでを解説しました。整備にあたっては、財政措置の活用と庁内の合意形成を進めながら、回線容量やセキュリティ、電源確保といった課題に一つずつ向き合うことが欠かせません。まずは自施設の現状を整理し、優先度の高い拠点から段階的な整備を検討してみてはいかがでしょうか。

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IT初心者やエンドユーザーに向けて、「難しいことをわかりやすく」をモットーに執筆中。
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