昨今、企業や自治体をはじめ、さまざまな現場でDXやAIの導入が進む中、その基盤となるネットワーク統合の重要性がこれまで以上に高まっています。ネットワークを一元化し、効率的に管理・運用することは、業務効率の向上やセキュリティ強化にも直結します。
本記事では、ネットワーク統合の基本から、そのメリット・注意点、さらに具体的な導入事例までをわかりやすく解説します。
ネットワーク統合とは?
ネットワーク統合とは、複数のネットワークや通信環境を一元化して、各拠点や組織ごとに独立していたシステムを連携させることで、DX化や業務の効率化を推進する取り組みです。
例えば、学校では以下の2つのネットワークが独立していることが一般的です。
- 生徒の成績や個人情報、人事に関わる情報などを扱う「校務系ネットワーク」
- 授業の配信、オンライン学習、デジタル教材の活用、調べ学習などに 利用される「学習系ネットワーク」
これらを、セキュリティ・通信制御・運営管理などの仕組みを共通化して、1つのネットワークに統合することを目指しています。
もっとも、ネットワークが独立していることは、1つの回線に発生した障害が全体に波及しにくい、通信障害時の予備回線を確保できる、といったメリットもあります。一方で、このままネットワークが分断された状態では、クラウドサービスの活用やAIの導入によるデータ活用に制限が生じるというデメリットがあります。
そのため、DX化や業務の効率化を推進する上では、機関や組織ごとの特性に合わせたセキュリティを確保しながら、ネットワーク統合を進めることが求められているのです。
ネットワークを統合するメリット3選
以下では、ネットワーク統合の大きなメリットを3つ解説します。
コスト削減につながる
ネットワーク統合の大きなメリットの1つが、運用・管理コストの削減です。
従来のネットワークでは、拠点や組織ごとに回線契約・機器購入・保守契約などを行う必要がありました。独立するネットワークの数に比例して契約数や購入機器が増加するため、運用・管理の手間やコストを削減する余地が少なかったのです。
しかし、ネットワーク統合を行うことで、1つのメイン回線と予備回線のようにセキュリティを維持したままネットワークの構成を最適化できます。これにより、保守契約の見直しや必要機器の削減などが可能になるため、全体的なコスト削減につながるのです。
セキュリティ全体が強固になる
ネットワークを統合すると、共通の通信基盤を利用することになるため、回線に障害が発生したり攻撃を受けたりすると、その影響が全体に広がるリスクが高くなります。
一方で、ネットワーク統合をしていると、通信制御・暗号化・アクセス権限制御 ・ログ管理などを共通の基準で実施できるため、全体のセキュリティ水準を均一化できるメリットがあります。
また、ファイアウォールやSOCの運用も共通化できるため、外部からの攻撃に対して強力な防御が可能になります。そのため、従来のように回線ごとにセキュリティ格差が生じる問題も解消されるのです。
ただし、クラウド利用の拡大により外部のサーバーにデータを保存する機会が増加しているほか、内部に侵入したマルウェアやランサムウェアへの対策は別途必要です。
そこで、ネットワーク統合を行うためには、あらゆる端末や通信を常に監視・検証する「ゼロトラスト」の導入が重要です。特に、秘匿性の高い情報を扱う医療機関や教育機関では、ネットワーク統合にゼロトラストを組み合わせることが必須となりつつあります。
DX化の実現
ネットワーク統合を行うと、これまで各拠点や部署ごとに分散していたデータを一元管理できるようになります。これにより、AIの導入やビッグデータの分析・活用が可能になるため、DX化や業務効率化の推進につながるのです。
例えば、医療機関では患者の電子カルテや検査・診療データをAIが分析して、医師の診断補助や治療方針の提案を行う「医療AI」の導入が進んでいます。
また、教育機関でも生徒の学習ログや成績などの情報を一元管理して、AIが苦手分野を分析したり教材の改善を支援したりする取り組みが始まっています。
このように、ネットワーク統合は単に通信を一本化する施策ではなく、DX化を進める上で欠かせない取り組みです。
ネットワーク統合をする際の注意点 3選
以下では、ネットワーク統合をする際の3つの注意点を解説します。
初期費用の負担が大きい
ネットワーク統合は、先述の通り中長期的にはコスト削減につながりますが、導入時にはネットワーク機器の更新や増設、クラウドサービスやVPNのライセンス費用、利用者の研修費用など、様々な初期費用が発生します。特に、既存の機器を再利用できない場合やシステム全体の再構築が必要になる場合は、想定以上の費用がかかるケースも珍しくありません。
そのため、将来的なコスト削減や業務効率化を見据えつつ、初期費用を抑えるための段階的なネットワークの統合計画を立てることが大切です。
ダウンタイムによるシステム停止のリスク
ネットワーク統合によってシステムが一本化されると、OSやソフトウェアのアップデート時、定期メンテナンスの際などに、一時的に大部分のシステムが停止するダウンタイムが発生します。このダウンタイムを適切に管理できていない場合、リアルタイム性が求められる医療現場などでは、診察・治療の遅れといった深刻な問題が生じる可能性があります。
そのため、アップデートやメンテナンスの際には、現場全体で手順やスケジュールを把握して業務時間外の夜間などに作業を行う、などの対策が必要です。
運用体制の再構築が必要になる
ネットワーク統合を行うと、システム構成や運用ルールが大きく変化します。これにより、以下のような点に注意しなければいけません。
- 現場ごとの利便性に合わせた細かな設定変更が難しくなる
- 回線にトラブルが発生した際の対応方法が従来とは変化する
- 統合ネットワークの運用には、より高度な知識や技術が求められる
そのため、従来のように各部門が個別に最適化していたネットワークではなく、組織全体で標準化された一つのネットワークを共有するという意識への転換が求められます。場合によっては、共通ルールの作成や運用体制の再構築に大きな手間がかかることも課題点として挙げられます。
業種ごとのネットワーク統合の事例3選
以下では、業種ごとに行われているネットワーク統合の事例を3つ解説します。
医療機関でのネットワーク統合
昨今では、高性能ハードウェアの普及に伴いAIの自己学習や情報処理の速度が向上したため、医療現場へのAI導入が国策となりました。その中で、医療部門・検査部門・事務部門などをつなぐ通信基盤の見直しとして、ネットワーク統合が進められています。
ネットワーク統合によって、電子カルテ・医療画像・検査データなどを一元管理し、AIによる画像解析や診断支援を効果的に活用できるようになりました。さらに、行政機関に対する診療報酬の申請などの事務業務にもAIが活用され始めており、ネットワーク統合は医療DXを支える基盤となっているのです。
教育機関でのネットワーク統合
教育機関では、GIGAスクール構想に基づく教育DX化に伴い、校務系ネットワークと学習系ネットワークの統合が進められています。
これにより、教職員には以下のようなメリットがあります。
校務と授業でのネットワーク操作が統一される
業務に応じてネットワークを切り替えるという煩雑な手間が削減されます。
生徒の成績やクラウド教材を1つのネットワーク上で利用できる
テスト採点、成績処理、出欠管理などの情報の一元管理が可能になるため、AIの導入による校務の自動化が可能です。
校内のネットワーク管理の手間を削減できる
校内のネットワークトラブルの対応などを担当している教職員の負担が大幅に減少します。
また、近年では教育委員会が中心となり市内の複数の学校のWAN回線やセキュリティを統合する事例もあります。これにより、各学校に共通のセキュリティポリシーを適用してセキュリティ対策の抜け漏れを防いだり、学校ごとに必要な帯域が異なっても効率的にWAN回線を最適化したりできる点が期待されています。
行政機関でのネットワーク統合
行政機関では、従来からセキュリティ確保のためにネットワークを「マイナンバー利用事務系」「LGWAN接続系」「インターネット接続系」の3つに分離する三層分離モデル(αモデル)が採用されています。しかし、昨今では行政サービスのデジタル化や自治体のDX化の観点から、三層分離モデルを維持しつつも、以下のような方法でネットワーク統合が進められています。
インターネット接続系とLGWAN接続系の統合
現在主流になっているのは、ネットワーク側でL3スイッチなどによる論理分離を行いながら、端末側では画面転送や無害化通信などの特定の通信のみを許可する方法です。従来の方式と比べ、ネットワークと業務端末を統合できるため、機器コストが削減できます。
また、画面転送については、インターネット接続系の仮想環境からLGWAN接続系の端末へ画面を転送する構造が一般的です。これは、LGWAN業務もインターネット利用も1つの端末で扱いたいが、インターネットからの脅威は遮断したいと考える自治体が多いためです。
ローカルブレイクアウトの導入
近年では、多くの端末や業務システムをインターネット接続系に統合する「β・β’モデル」が提唱されています。しかし、これには統合作業の負担やセキュリティ確保などの課題があり、即座に移行するのは現実的ではありません。
そこで注目されているのが、LGWAN接続系の端末からでも安全にクラウドサービスへのアクセスを可能にする、αモデルにローカルブレイクアウトを導入した「α’モデル」への移行です。これにより、LGWANの直接インターネットに接続できない制限を解消して、クラウドサービスやネットワークの運用を効率化できます。
また、重要な個人情報を扱う点から分離の徹底が求められていたマイナンバー利用事務系のネットワークについても、令和7年3月の「地方公共団体における情報セキュリティポリシーに関するガイドライン」の改定により、画面転送を通じて他ネットワークとの接続を可能にする動きが進んでいます。このような動きが行政DXの1つの転換点となっているのです。
参考:地方公共団体における情報セキュリティポリシーに関するガイドライン(令和7年3月版)<PDF>
まとめ
ネットワーク統合は、各拠点や部門ごとに独立していたネットワーク回線を1本化する取り組みです。AIの導入やDX化を進める上では欠かせない取り組みであるため、昨今では医療機関・教育現場・行政機関などでもネットワーク統合が進められています。
初期費用が発生する、ネットワークの運用体制が変化する、といった注意点はありますが、中長期的には運用・管理コストの削減や業務効率化の実現を支える重要な基盤なのです。
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