【後編】自治体DXで目指す、実現すべき未来とは
総務省は「三層分離対策の見直し」や「クラウド・バイ・デフォルト原則」など、自治体DXの実現に向けた施策や取り組みを提唱している。しかしながら、もともとのITインフラの導入や活用水準は自治体の大小や予算、また地域での差が大きく、どの自治体でも一足飛びに自治体DXを進められるものではない。
そこで前編に引き続き、地方自治体のDX推進ご担当者様と、さまざまな地方自治体のITコンサルティングを行ってきたエキスパートそれぞれの目線から、自治体のデジタルトランスフォーメーションを中心に、今後自治体が行っていくべき施策とその考え方を聞いた。
前編はこちら
これからの自治体DXが進む方向
━━ 前編ではここまでの状況を中心にお聞きしましたが、由利本荘市様では今後の自治体DXをどう進めるかのビジョンをお持ちでしょうか。

秋田県由利本荘市 情報政策課 今野 薫氏
そうですね。Microsoft 365の機能や業務側のデータの扱い方などを整理しながら、少しずつエンドポイントとなる端末をゼロトラスト側に巻き取っていくという構想で考えています。具体的な製品名で言うとAzure ADやIntuneなどを利用して、LGWAN接続系端末を管理するようにしていく方向ですね。
━━ ゼロトラストアーキテクチャを目指していくのですね。



秋田県由利本荘市 情報政策課 今野 薫氏
ゼロトラストでエンドポイントを管理しないとデータへのアクセスが制御できないということになりますので、これを本気で進めていくうえでポイントになってくるのが、クラウド・バイ・デフォルトです。その意味でボトルネックになるのは実は業務システムなのです。
自治体の業務パッケージがクラウド化されていないと、ゼロトラストで扱えません。



アライドテレシス 後藤
ガバメントクラウドでは17業務にプラス3業務の基幹業務システムがクラウド上で標準化されますが、実際に自治体様に必要なのは4、50の業務システムと言われています。それらの業務もガバメントクラウド上に構築されるのが望ましいということですね。



秋田県由利本荘市 情報政策課 今野 薫氏
SaaSとして提供してくれると良いなと思っています。むしろそうならないと成立しないので、そういう意味では、ガバメントクラウドというそもそもの発想自体は有望と思っています。
Googleクラウドプラットフォームなり、アマゾン・ウェブ・サービスなり、Azureなり、クラウドプラットフォーム上でさまざまなソリューションを組み合わせれば、ゼロトラストモデルのシステムを構築できるので、自分たちでデータセンターに構築して管理するより楽なはずです。
そのようなビジョンはあったと認識していますが、ちょっと間に合いませんでしたかね。



KUコンサルティング 高橋氏(「高」は正式には、はしごだか)
SaaSとしての提供まで一気にやるには時間的な制約があったと思います。ミドルウェアへの依存がかなりの要因を占めていて、特にベンダー側が対応できない、開発が追いつかなかったというのが大きいですね。
━━ 多くの自治体様で検討は進めている状況でしょうか。



KUコンサルティング 高橋氏
私がお手伝いしていて感じることは、β、β’モデルへの移行を検討した/している自治体は結局まだ僅かということです。検討するだけでも非常に多くの学びがあると思うのですが、ほとんどの自治体は動き出せず止まっている、そこまでの余力がないのだと思います。
ですから、αモデルに残るというのは、その選択肢しかないというのが大多数です。細かく分類すると、αモデルのままというのはほとんどが中小の自治体で、β、β’に移行したのはある程度の規模の自治体がほとんどではないかと思います。ですので、自治体の規模でネットワークのあり方が変わってきても良いかと思います。
ただ最終的には私も今野さんのおっしゃるようにゼロトラストだと考えています。私は文部科学省のガイドライン※策定に関わらせてもらっているのですが、最終的にはゼロトラストが目指すべき姿だと公表しました。ただ、過渡期ではあるので、大規模自治体向けのアプローチと、小規模自治体向けアプローチがあるのは仕方ないという気もしています。
※文部科学省「教育情報セキュリティポリシーに関するガイドライン」



秋田県由利本荘市 情報政策課 今野 薫氏
そういう意味ですと、本当は小さいところの方がゼロトラストはやりやすいですね。都道府県レベルですとβモデルはいけますが、逆にゼロトラストは難しいでしょう。



KUコンサルティング 高橋氏
中小の自治体は、もともとほとんどのシステムが既にクラウドに載っているので、あとはアクセス認証がしっかりとできる仕組みになれば良いと思います。
━━ もっと自治体ごとの事情を勘案したアプローチができればというところですね。



KUコンサルティング 高橋氏
今回の三層対策の見直しについて触れると、β、β’は、まずコロナが広まってテレワークが待ったなし、なおかつその際にクラウド・バイ・デフォルト原則もありましたから、時間の無い中で出した案になります。
私はこれがずっと続くとは全く思っていません。次の時代に沿ったガイドラインが出てくることを期待しています。三つのモデルのどれかを選ばなければいけない、とならないようにしてほしいとも思います。
目指す未来に向けてチャレンジを
━━ これからDXを推進していく自治体様に向けて、アドバイスをお願いします。



秋田県由利本荘市 情報政策課 今野 薫氏
言い古された話になりますが、全体最適とサービスデザインを意識しないとDXには向かえないということです。そのためには各部署に横串を通すコミュニケーションが必要です。組織のカルチャー、風土がそれを妨げていると、いくら良い技術を入れたり、ガイドラインを参考にして完璧なポリシーを作ったりしても、DXは進まないと思います。
レガシーな技術というのは、それを使う組織がレガシーであるから、という結果です。根本的に体質を変えないと、いくら新しい技術を入れても、どんどんそれは陳腐化してしまいます。
ですので、DXの肝は「D」ではなく「X」です。今回、デジタルをテーマにした場ですが、いったん「D」の事は忘れてもいいのではないかとすら私は思います。
━━ その中で、インフラにはなにか新しい役割はありますか。



秋田県由利本荘市 情報政策課 今野 薫氏
技術的にはやはり、ゼロトラストアーキテクチャをどう実装していくか、ではないかと思います。これをもう少しとっつきやすい表現にするとすれば、「いつでも、どこでも、誰とでも、働ける」という働き方改革のイメージになると思います。
そのためのクラウド活用です。そして、クラウド活用のためにはゼロトラストという理屈です。クラウド活用のハードルがちょっと高い、そこまで追いつけていない自治体は、例えばLGWAN接続系を無線化して一人一台端末を庁内で持って歩けるようにする、それだけでも、働き方改革としては一歩進んでいけるのかなと思います。これなら比較的簡単にできる。
━━ 高橋様はいかがでしょう。



KUコンサルティング 高橋氏
私は、ツールの見直し、そして働き方を変えるというところからDXをやるべきだと思っています。最近ある新聞に寄稿をしました。「日本でIT基本法ができて20年、自治体の働き方は何も変更がされていない、まさに失われた20年である」と。
20年前に私は庁内LANの敷設を行いました。職員一人一人にパソコンを配って、ネットワーク、インターネットを使った業務を行うようになったのです。
一方、20年で社会は大きく変わっています。コミュニケーションの話で言えば、今どき普通の生活で固定電話やFAXを使っている人はほとんどいないですよね。ですが、なぜか自治体の現場に行くと、固定電話やFAXといった一世代前の技術がまだ残っています。
この辺りから見直していくべきでしょう。「少なくとも今の時代に追いつきましょう、もう少し先を見ましょう、そして追い越す必要はないですが、今の時代に社会が取り入れているものを使うところから始めてみたらどうでしょうか」と今あちこちで言っています。
━━ この10年、20年でコミュニケーション手段は本当に大きく変わりましたね。ネットワークに求められる役割も変化しています。



KUコンサルティング 高橋氏
ネットワークはとても重要になったと思います。オンラインで繋がる時代では、繋がらないと仕事ができなくなってしまいます。これはGIGAスクール構想が始まった学校も同様です。何が重要かというと、ネットワークに繋がって授業が進んでいくということです。授業ができる/できないが、ネットワークにかかっていますから、ネットワークインフラは、後藤さんがおっしゃったように、社会インフラの一つになったと思います。
━━ アライドテレシスからは、自治体ネットワーク構築のポイントとなるようなお話をお願いします。



アライドテレシス 後藤
今野さんが明言された「いつでも、どこでも、誰とでもできる環境」を作るのが、働き方改革の目指すところではないかと思いますし、それを私たちベンダーが具体的にどうやって作り上げていくか、どう提案していくかにかかっていると思います。
その中で、現時点での一つのゴールがゼロトラストアーキテクチャだと思います。それを実現するためには、当社だけで完結させるのではなく、多種多様なさまざまなサービス、製品から最適な組み合わせをお客様に届けていくことがまず私たちの役割であると考えています。
真のゼロトラストに一足飛びで到達するのではなく、αモデルから移行しやすい「クラウド利用型モデル」を経由して、未来のゴールに向かっていくのが良いのではないでしょうか、というのが当社独自モデルでの提案です。
また民間企業や医療機関などの運用をリモート監視する仕組み、サービスが浸透しておりますが、例えば当社の独自モデルで採用しているローカルブレイクアウト回線(特定クラウド用通信回線)も、リモート監視通信を特定用途通信として定義し、運用支援サービスとして活用するということも十分期待できるのではないかと考えています。



アライドテレシス 中村
クラウド・バイ・デフォルト原則とある通り、クラウド活用は自治体様でも今後ますます進んでいくと思います。これは民間企業でも同じことで、クラウドシフトが進んでいくなかで、ネットワークの接続形態なども大きく変わっています。具体的に言うと、これまで本社拠点間は閉域網で繋がっていたところが、インターネットを前提としたネットワークに置き換わっています。インターネットを前提としたネットワークで、閉じられたネットワークから開かれたネットワークへの移行ですね。
セキュリティのあり方もそうです。セキュリティ機能もオンプレミスからクラウドへ移行しています。こうした変化は、自治体様においてもクラウドシフトに伴って必然的に起こっていくだろうと想像しています。
もう一つは、ネットワークの重要性の話です。非常に重要である反面、そこに必要以上の高い機能はあまり必要ないと考えています。重要なのはやはり「安心・安全・安価」で、かつシンプルに使えることだと思っています。そうしたときにセキュリティも含め、安心・安全・安価におまかせできる環境を提供していきたいと考えています。そして課題に挙がっていた業務システムを変える、業務プロセスを変えることは、ものすごい時間がかかることで、関連する部門も多いと思いますので、インフラにかかるメンテナンスの手間を削減してできた時間を、そこに使っていただけるように、アウトソースできるような環境を当社として提供できれば社会貢献にも繋がるのではないかと考えています。
━━ ありがとうございます。最後に自治体DXのポイントをいただいてもよいでしょうか。



秋田県由利本荘市 情報政策課 今野 薫氏
総括的な話になりますが、自治体DXを進めていくことは、これまでの公務員の仕事のように何か確固たる根拠法令や前例、マニュアルが存在して、その通りやれば事足りるというものではありません。マインドを変えて考える必要があると思います。例えばセキュリティガイドラインの記述の枠内だけで物事を考えると、由利本荘市のような事例を発想するのは難しいのではないでしょうか。自分の周囲だけではなく、広くデジタルの知見を民間も含めて集めることが大切です。
国から出てくる文書だけ見ていても、トレンドや進むべき先は分かりません。そういった文書はある種、公的な成果物として公表する以上、既に過ぎ去ったものを、文書として固定化しなければいけないわけです。まだあやふやなものを文書にするわけにはいかないですからね。
逆を言うと、今やあやふやなものに突き進んでいかなければいけない時代ということです。なので、文書として固定された過去のものだけを参照している人は追いつけないかもしれません。とは言っても、最新技術を導入することは目的ではなく手段に過ぎませんから、やはり最後のゴールは常に意識しないと失敗に繋がってしまいますので、そうならないように注意が必要です。
あと、最後は運というかタイミングですね。チャンスが来た際にすぐ動けるように常に検討し、企画を溜め込んでおくことが大事です。



KUコンサルティング 高橋氏
まさに私は運が良かったのかもしれませんね。私は豊島区役所時代に、当時は駄目だと言われていたLGWANの無線化を始めたり、閉域網でテレワークを始めたり、あの当時「高橋は何をやっているんだ」と言われていました。ただ、幸運の女神のおかげか、総務省は最終的にOKを出し、今ではもう当たり前になったわけです。
確かにガイドラインがありますから、その通りにやっていくことも大事なのかもしれません。しかし、こういう働き方にしたいとか、こういうサービスをやりたいと自分たちが目指したときに、縛られて身動きできないのであれば、それはもどかしいことではないでしょうか。
DXの第一歩として、新しい働き方を目指していただきたいと、自治体の皆様にエールを送りたいと思います。
━━ アライドテレシスから何かひと言お願いします。



アライドテレシス 後藤
アライドテレシスは全国に43の営業拠点を置いております。地域密着型の寄り添い型で営業活動をしております。お気軽にお問い合わせください。



KUコンサルティング 高橋氏
それは結構大事なことですよね。自治体を回っていて実感するのは、地方に行けば行くほど相談相手がいないということです。地域密着型はすごく大事であると思います。



秋田県由利本荘市 情報政策課 今野 薫氏
全くその通りですね。地方になればなるほど、ベンダーさんは来てくれないので、とにかく自分で勉強しないと知見が得られません。ある程度大きなソリューションを持っているベンダーさんの営業にどうやって問い合わせればいいのか、これだけでも大きなハードルになってしまっています。なので、ベンダーさんが近くにいて、回ってきてくれるのは、すごく心強いことだと思います。



アライドテレシス 後藤
励みになります。ありがとうございます。



アライドテレシス 中村
当社はITインフラベンダーですので、ネットワークとセキュリティを、安心・安全・安価にご利用いただけるITインフラをご提供していきたいと思います。当社のコーポレートミッションである「社会品質を創る。アライドテレシス」を地でいけるように頑張っていきたいと思います。よろしくお願いします。
━━ 本日はありがとうございました。
アライドテレシスでは、自治体DX推進に向けて、安定した自治体ネットワークの構築や、三層分離の見直しなどの最新のセキュリティ対策についてご紹介する「自治体DXに向けた安定性の高いインフラ構築とセキュリティ対策」をご提供しております。下記より、ぜひダウンロードをお願いします。
連載記事
自治体DXで目指す、実現すべき未来とは
総務省が掲げる「三層分離対策の見直し」や「クラウド・バイ・デフォルト原則」などの施策に対し、自治体ごとにITインフラの状況や予算規模には差があり、一律にDXを進めることは難しい。そこで、自治体DXの今後の施策と考え方について、現場担当者とコンサルティングの専門家それぞれの視点から話を聞いた。
登場者


秋田県由利本荘市
企画振興部 情報政策課 情報政策班
主査
今野 薫氏


総務省地域情報化アドバイザー
総務省テレワーク・マネージャー
合同会社KUコンサルティング代表社員
高橋 邦夫氏


アライドテレシス株式会社
執行役員
東日本営業本部 本部長
兼 公共推進室 室長
後藤 雅宏


アライドテレシス株式会社
IT DevOps本部 本部長
中村 徹
- 本記事の内容は公開日時点の情報です。
- 本記事の取材および撮影は感染予防対策を講じた上で行っております。
- 記載されている商品またはサービスの名称等はアライドテレシスホールディングス株式会社、アライドテレシス株式会社およびグループ各社、ならびに第三者や各社の商標または登録商標です。
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