設定例集#26: NAT機器をはさむ2点間IPsec VPN(NAT-Traversal)
インターネット上に暗号化されたトンネルを張り、2つの拠点をIP接続するIPsec VPNの設定例です。
この例は、IPsecルーター間に既設のNAT機器(ブロードバンドルーターなど)が存在する場合の基本設定です。
ここでは、NAT機器の設定を変更することなくNAT経由でIPsec(ESP)を使用するため、NAT-Traversalを使用しています。
なお、この構成ではつねにルーターBから通信が開始されるため、NAT機器に特別な設定をする必要はありません。
ただし、無通信時にセッション情報がNAT変換テーブルから消えてしまわないよう、ルーターB側から定期的にDPDパケットを送信するようにします。
構成
|
ルーターA |
ルーターB |
ISPから提供された情報 |
ISP接続用ユーザー名 |
user@isp |
ISP接続はNAT機器が行うため不要 |
ISP接続用パスワード |
isppasswd |
PPPoEサービス名 |
指定なし |
WAN側IPアドレス |
10.0.0.1/32 |
ルーターの基本設定 |
WAN側物理インターフェース |
eth1 |
eth1 |
WAN側(ppp0)IPアドレス |
接続時にISPから取得 |
なし |
WAN側(eth1)IPアドレス |
なし |
192.168.100.254/24 |
LAN側(vlan1)IPアドレス |
192.168.10.1/24 |
192.168.20.1/24 |
デフォルトゲートウェイ |
ppp0 |
192.168.100.1(NAT機器) |
IKEフェーズ1(ISAKMP)設定 |
IKEバージョン・交換モード |
IKEv1 Aggressiveモード |
アルゴリズム |
AES128 / SHA256 / Group2 |
ローカルID |
始点アドレス(デフォルト) |
Client |
IKEフェーズ2(IPsec)設定 |
アルゴリズム |
AES128 / SHA256 |
[事前共有鍵]
設定開始前に
自動設定の確認と削除
本設定例に掲載されているコマンドは、設定がまったく行われていない本製品の初期状態(スタートアップコンフィグなしで起動した状態)から入力することを前提としています。
そのため、通常は erase startup-config を実行し、スタートアップコンフィグが存在しない状態で起動してから、設定を始めてください。
ただし、本製品はスタートアップコンフィグなしで起動した場合でも、特定の条件を満たすと自動的な設定を行うことがあるため、その場合は設定例にしたがってコマンドを入力しても、コマンドがエラーになったり、全体として意図した動作にならない可能性があります。
これを避けるため、設定開始にあたっては次のいずれかの方法をとることをおすすめします。
- ネットワークケーブルを接続せずに起動する。
起動時に自動設定が実行されるための条件の一つに、特定インターフェースのリンクアップがあります。
ネットワークケーブルを接続しない状態で起動することにより、自動設定の適用を回避できます。
- 自動設定を手動で削除してから設定を行う。
前記の方法を採用できず自動設定が適用されてしまった場合は、「自動的な設定内容の削除」にしたがって、これらを手動で削除してから設定を開始してください。
自動設定が行われる条件などの詳細については、AMF応用編のAMFネットワーク未検出時の拡張動作をご参照ください。
システム時刻の設定
ログなどの記録日時を正確に保ち、各種機能を適切に動作させるため、システム時刻は正確にあわせて運用することをおすすめします。
特に本製品はリアルタイムクロックを内蔵していないため、起動するたびに時刻をあわせる必要があります。
ご使用の環境にあわせ、次のいずれかの方法でシステム時刻を設定してください。
ルーターAの設定
- WANポートeth1上にPPPoEインターフェースppp0を作成します。これには、encapsulation pppコマンドを使います。
PPPの詳細は「PPP」/「一般設定」をご覧ください。
interface eth1
encapsulation ppp 0
- PPPインターフェースppp0に対し、PPPoE接続のための設定を行います。
・LCP EchoによるPPP接続状態の確認(keepalive)
・ユーザー名(ppp username)
・パスワード(ppp password)
・IPアドレスの固定設定(ip address)
・MSS書き換え(ip tcp adjust-mss)
PPPの詳細は「PPP」/「一般設定」をご覧ください。
interface ppp0
keepalive
ppp username user@isp
ppp password isppasswd
ip address 10.0.0.1/32
ip tcp adjust-mss pmtu
- LAN側インターフェースvlan1にIPアドレスを設定します。これにはip addressコマンドを使います。
IPインターフェースの詳細は「IP」/「IPインターフェース」をご覧ください。
interface vlan1
ip address 192.168.10.1/24
- ファイアウォールやNATのルール作成時に使うエンティティー(通信主体)を定義します。
エンティティー定義の詳細は「UTM」/「エンティティー定義」をご覧ください。
内部ネットワークを表すゾーン「private」を作成します。
これには、zone、network、ip subnetの各コマンドを使います。
zone private
network lan
ip subnet 192.168.2.0/30
ip subnet 192.168.10.0/24
ip subnet 192.168.20.0/24
- 外部ネットワークを表すゾーン「public」を作成します。
前記コマンドに加え、ここではhost、ip addressの各コマンドも使います。
zone public
network wan
ip subnet 0.0.0.0/0 interface ppp0
host ppp0
ip address 10.0.0.1
- ファイアウォールやNATのルール作成時に通信内容を指定するために使う「アプリケーション」を定義します。
これには、application、protocol、sport、dport、icmp-type、icmp-codeの各コマンドを使います。
アプリケーション定義の詳細は「UTM」/「アプリケーション定義」をご覧ください。
IPsecのESPパケットを表すカスタムアプリケーション「esp」を定義します。
application esp
protocol 50
- ISAKMPパケットを表すカスタムアプリケーション「isakmp」を定義します。
application isakmp
protocol udp
dport 500
- NAT-Traversalパケットを表すカスタムアプリケーション「nat-t」を定義します。
application nat-t
protocol udp
dport 4500
- 外部からの通信を遮断しつつ、内部からの通信は自由に行えるようにするファイアウォール機能の設定を行います。
これには、firewall、rule、protectの各コマンドを使います。
・rule 10 - 内部から内部への通信を許可します
・rule 20 - 内部から外部への通信を許可します
・rule 30 - 本製品のWAN側インターフェースから外部への通信を許可します
・rule 40 - ISAKMPパケットを許可します
・rule 50 - IPsec(ESP)パケットを許可します
・rule 60 - NAT-Traversalパケットを許可します
ファイアウォールの詳細は「UTM」/「ファイアウォール」をご覧ください。
firewall
rule 10 permit any from private to private
rule 20 permit any from private to public
rule 30 permit any from public.wan.ppp0 to public.wan
rule 40 permit isakmp from public.wan to public.wan.ppp0
rule 50 permit esp from public.wan to public.wan.ppp0
rule 60 permit nat-t from public.wan to public.wan.ppp0
protect
- LAN側ネットワークに接続されているすべてのコンピューターがダイナミックENAT機能を使用できるよう設定します。
これには、nat、rule、enableの各コマンドを使います。
NATの詳細は「UTM」/「NAT」をご覧ください。
nat
rule 10 masq any from private to public
enable
- IPsecの通信方式を規定するIPsecプロファイルを作成します。
IPsecプロファイルの詳細は「VPN」/「IPsec」をご覧ください。
ここでは、crypto ipsec profileコマンドでIPsecプロファイルを作成し、以下の情報を設定します。
・アルゴリズム(transform)
crypto ipsec profile ipsec1
transform 1 protocol esp integrity SHA256 encryption AES128
- ISAKMPの通信方式を規定するISAKMPプロファイルを作成します。
ISAKMPプロファイルの詳細は「VPN」/「IPsec」をご覧ください。
ここでは、crypto isakmp profileコマンドでISAKMPプロファイルを作成し、以下の情報を設定します。
・IKEバージョン(version)
・アルゴリズム(transform)
crypto isakmp profile isakmp1
version 1 mode aggressive
transform 1 integrity SHA256 encryption AES128 group 2
- 対向ルーターとの間で使用するISAKMPの事前共有鍵を設定します。これにはcrypto isakmp keyコマンドを使います。
ここでは対向ルーターのIPアドレスが不定のため、対向ルーターをID文字列で指定しています。
crypto isakmp key secret hostname Client
- 対向ルーターとの間で使用するISAKMPプロファイルを指定します。これにはcrypto isakmp peerコマンドを使います。
キーワードdynamicは、IPアドレスが不定なすべての対向ルーターを意味しています。
crypto isakmp peer dynamic profile isakmp1
- IPsecトンネルインターフェースtunnel1を作成します。
トンネルインターフェースの詳細は「VPN」/「トンネルインターフェース」を、IPsecの詳細は「VPN」/「IPsec」をご覧ください。
これには、interfaceコマンドでトンネルインターフェースを作成し、以下の情報を設定します。
・トンネルインターフェースから送信するデリバリーパケットの始点(自装置)アドレス(tunnel source)
・トンネルインターフェースから送信するデリバリーパケットの終点(対向装置)アドレス(tunnel destination)
・トンネルインターフェースにおける対向装置ID(リモートID)(tunnel remote name)
・トンネルインターフェースに対するIPsec保護の適用とIPsecプロファイルの指定(tunnel protection ipsec)
・トンネリング方式(tunnel mode ipsec)
・トンネルインターフェースのIPアドレス(ip address)
・トンネルインターフェースにおけるMSS書き換え設定(ip tcp adjust-mss)
・トンネルインターフェースのMTU(mtu)
interface tunnel1
tunnel source ppp0
tunnel destination dynamic
tunnel remote name Client
tunnel protection ipsec profile ipsec1
tunnel mode ipsec ipv4
ip address 192.168.2.1/30
ip tcp adjust-mss 1260
mtu 1300
- デフォルト経路(0.0.0.0/0)とルーターBのLAN側(192.168.20.0/24)への経路を設定します。これにはip routeコマンドを使います。
ただし、ルーター間のVPN接続が有効になるまでは、対向側LANへの経路は使用できないように設定します。
IP経路設定の詳細は「IP」/「経路制御」をご覧ください。
ip route 0.0.0.0/0 ppp0
ip route 192.168.20.0/24 tunnel1
ip route 192.168.20.0/24 Null 254
- 以上で設定は完了です。
end
ルーターBの設定
- WANポートeth1にIPアドレスを設定します。これにはip addressコマンドを使います。
IPインターフェースの詳細は「IP」/「IPインターフェース」をご覧ください。
interface eth1
ip address 192.168.100.254/24
- LAN側インターフェースvlan1にIPアドレスを設定します。これにはip addressコマンドを使います。
IPインターフェースの詳細は「IP」/「IPインターフェース」をご覧ください。
interface vlan1
ip address 192.168.20.1/24
- IPsecの通信方式を規定するIPsecプロファイルを作成します。
IPsecプロファイルの詳細は「VPN」/「IPsec」をご覧ください。
ここでは、crypto ipsec profileコマンドでIPsecプロファイルを作成し、以下の情報を設定します。
・アルゴリズム(transform)
crypto ipsec profile ipsec1
transform 1 protocol esp integrity SHA256 encryption AES128
- ISAKMPの通信方式を規定するISAKMPプロファイルを作成します。
ISAKMPプロファイルの詳細は「VPN」/「IPsec」をご覧ください。
ここでは、crypto isakmp profileコマンドでISAKMPプロファイルを作成し、以下の情報を設定します。
・IKEバージョン(version)
・アルゴリズム(transform)
crypto isakmp profile isakmp1
version 1 mode aggressive
transform 1 integrity SHA256 encryption AES128 group 2
- 対向ルーターとの間で使用するISAKMPの事前共有鍵を設定します。これにはcrypto isakmp keyコマンドを使います。
crypto isakmp key secret address 10.0.0.1
- 対向ルーターとの間で使用するISAKMPプロファイルを指定します。これにはcrypto isakmp peerコマンドを使います。
crypto isakmp peer address 10.0.0.1 profile isakmp1
- IPsecトンネルインターフェースtunnel1を作成します。
トンネルインターフェースの詳細は「VPN」/「トンネルインターフェース」を、IPsecの詳細は「VPN」/「IPsec」をご覧ください。
これには、interfaceコマンドでトンネルインターフェースを作成し、以下の情報を設定します。
・トンネルインターフェースから送信するデリバリーパケットの始点(自装置)アドレス(tunnel source)
・トンネルインターフェースから送信するデリバリーパケットの終点(対向装置)アドレス(tunnel destination)
・トンネルインターフェースにおける自装置ID(ローカルID)(tunnel local name)
・トンネルインターフェースに対するIPsec保護の適用とIPsecプロファイルの指定(tunnel protection ipsec)
・トンネリング方式(tunnel mode ipsec)
・トンネルインターフェースのIPアドレス(ip address)
・トンネルインターフェースにおけるMSS書き換え設定(ip tcp adjust-mss)
・トンネルインターフェースのMTU(mtu)
interface tunnel1
tunnel source eth1
tunnel destination 10.0.0.1
tunnel local name Client
tunnel protection ipsec profile ipsec1
tunnel mode ipsec ipv4
ip address 192.168.2.2/30
ip tcp adjust-mss 1260
mtu 1300
- デフォルト経路(0.0.0.0/0)とルーターAのLAN側(192.168.10.0/24)への経路を設定します。これにはip routeコマンドを使います。
ただし、ルーター間のVPN接続が有効になるまでは、対向側LANへの経路は使用できないように設定します。
IP経路設定の詳細は「IP」/「経路制御」をご覧ください。
ip route 0.0.0.0/0 192.168.100.1
ip route 192.168.10.0/24 tunnel1
ip route 192.168.10.0/24 Null 254
- 以上で設定は完了です。
end
設定の保存
■ 設定が完了したら、現在の設定内容を起動時コンフィグとして保存してください。これには、copyコマンドを「copy running-config startup-config
」の書式で実行します。
awplus# copy running-config startup-config ↓
Building configuration...
[OK]
また、write fileコマンド、write memoryコマンドでも同じことができます。
awplus# write memory ↓
Building configuration...
[OK]
その他、設定保存の詳細については「運用・管理」/「コンフィグレーション」をご覧ください。
ファイアウォールログについて
■ ファイアウォールのログをとるには、次のコマンド(log(filter))を実行します。
awplus(config)# log buffered level informational facility local5 ↓
■ 記録されたログを見るには、次のコマンド(show log)を実行します。ここでは、ファイアウォールが出力したログメッセージだけを表示させています。
awplus# show log | include Firewall ↓
ルーターAのコンフィグ
!
interface eth1
encapsulation ppp 0
!
interface ppp0
keepalive
ppp username user@isp
ppp password isppasswd
ip address 10.0.0.1/32
ip tcp adjust-mss pmtu
!
interface vlan1
ip address 192.168.10.1/24
!
zone private
network lan
ip subnet 192.168.2.0/30
ip subnet 192.168.10.0/24
ip subnet 192.168.20.0/24
!
zone public
network wan
ip subnet 0.0.0.0/0 interface ppp0
host ppp0
ip address 10.0.0.1
!
application esp
protocol 50
!
application isakmp
protocol udp
dport 500
!
application nat-t
protocol udp
dport 4500
!
firewall
rule 10 permit any from private to private
rule 20 permit any from private to public
rule 30 permit any from public.wan.ppp0 to public.wan
rule 40 permit isakmp from public.wan to public.wan.ppp0
rule 50 permit esp from public.wan to public.wan.ppp0
rule 60 permit nat-t from public.wan to public.wan.ppp0
protect
!
nat
rule 10 masq any from private to public
enable
!
crypto ipsec profile ipsec1
transform 1 protocol esp integrity SHA256 encryption AES128
!
crypto isakmp profile isakmp1
version 1 mode aggressive
transform 1 integrity SHA256 encryption AES128 group 2
!
crypto isakmp key secret hostname Client
!
crypto isakmp peer dynamic profile isakmp1
!
interface tunnel1
tunnel source ppp0
tunnel destination dynamic
tunnel remote name Client
tunnel protection ipsec profile ipsec1
tunnel mode ipsec ipv4
ip address 192.168.2.1/30
ip tcp adjust-mss 1260
mtu 1300
!
ip route 0.0.0.0/0 ppp0
ip route 192.168.20.0/24 tunnel1
ip route 192.168.20.0/24 Null 254
!
end
ルーターBのコンフィグ
!
interface eth1
ip address 192.168.100.254/24
!
interface vlan1
ip address 192.168.20.1/24
!
crypto ipsec profile ipsec1
transform 1 protocol esp integrity SHA256 encryption AES128
!
crypto isakmp profile isakmp1
version 1 mode aggressive
transform 1 integrity SHA256 encryption AES128 group 2
!
crypto isakmp key secret address 10.0.0.1
!
crypto isakmp peer address 10.0.0.1 profile isakmp1
!
interface tunnel1
tunnel source eth1
tunnel destination 10.0.0.1
tunnel local name Client
tunnel protection ipsec profile ipsec1
tunnel mode ipsec ipv4
ip address 192.168.2.2/30
ip tcp adjust-mss 1260
mtu 1300
!
ip route 0.0.0.0/0 192.168.100.1
ip route 192.168.10.0/24 tunnel1
ip route 192.168.10.0/24 Null 254
!
end
(C) 2019 - 2024 アライドテレシスホールディングス株式会社
PN: 613-002735 Rev.AD